343 スライムさんとひげそり
スライムさんが外で、ぴょんぴょん、はねていた。
「こんにちは」
「あ、えいむさん! こんにちは!」
スライムさんは、ぴょんぴょんしながら言った。
「なにしてるの?」
見ると、スライムさんの下には抜いた雑草がいくつかあった。その上でぴょんぴょんしているので、体の下側に、砂や、細かい草がくっついている。
「えいむさんは」
スライムさんがぴたり、と止まった。
「どうなったら、おとなになった、とおもいますか?」
「大人? うーん。お金では買えないものがあるんですよ……、って言えるようになったときかな」
「かっこいい!」
「へへ。そうかな」
「はい! でも、ぼくはちがいます。ひげそりです」
「ひげそり?」
「はい。ひげをそれるようになったら、おとなです」
「ふうん。女の人は?」
「……」
「……」
「ですから、ひげをつけていたのです!」
スライムさんは何事もなかったかのように言った。
「それはひげだったんだね」
「はい! えいむさん、そってくれますか!」
「私が?」
私たちはお店の中に移動した。
「これを使うの?」
「はい!」
私は、父が使っているのと似た形のカミソリを手に取った。
ナイフのようにまっすぐだけれど、先が四角い。
これを見ると私はいつも、刃の部分が全部四角いので、あまり切れない刃物のような印象を持っていた。
ちょっと薬草を切ってみる。すっ、と音もなく茎の根本が切れた。
「すごく切れる」
「うってつけです!」
スライムさんはぴょん、とカウンターの上にのった。
「どうぞ!」
スライムさんは、背中を下にして、顔を上に向けた。
スライムさんの下についた、細かな葉っぱが見える。
「じゃあ、やりますねー」
「はい!」
「動かないでくださいねー」
「はい!」
スライムさんが元気よく言うので体が動く。
「こんな感じかな」
私は左手をそえて、スライムさんの葉っぱを削り取るようにカミソリを動かした。
すー、っとなめらかに動いていって。
「あっ」
葉っぱだけではなく、青くて透き通った、薄い紙のようなものまで削れ取れていた。
スライムさんの体だろうか。
私は、それをつまんだ。薄い青いものに、草がまぶされている。ゆらすと、ぷるぷるしていた。
「どうかしましたか?」
スライムさんは上を向いたまま言った。
「えっと……。スライムさんが、削れちゃったかもしれない」
「ええ!?」
「痛くない?」
「ぜんぜんいたくないです!」
「そっか」
私は、削った部分を指でさわってみる。
感触は、他の場所と同じように思える。
スライムさんん水分が流れ出てくるというわけでもない。いや、そもそもスライムさんは水のたまった袋というわけではないから、水分が出てくるわけではないのか。
「つづけてください!」
「続けるの?」
「おとなになるので!」
「そう言われたら、やるけど」
だいじょうぶそうなので、私は続けてひげそりをした。
しかし、葉っぱをちゃんと取ろうとすると、薄い、スライムさんの体がどうしても削れてしまう。
すー。
すー。
すー。
「……きれいになりました」
「はい!」
スライムさんが、ぱっ、と起き上がった。
スライムさんの削れた部分の面が、カウンターにふれる。すると、スライムさんが、おや、という顔をした。
「……どうかした?」
私は心配になってきいた。
「なんだか、いつもよりもひんやりするような……」
「やっぱり、スライムさんの体が」
「もっとひげそりしたいです!」
スライムさんは、ぴょん、ととびあがった。
「えっ?」
「このひんやり、たまらないですねえ……」
スライムさんは、うっとりした。
「あついじきに、ぴったりです!」
「そうなの? じゃあ、私もひげそりしたら涼しくなるのかな」
「えいむさんは、まだ、は・や・い・で・す・よ!」
スライムさんは、一文字ずつ、体をゆらしながら言った。
「これはどうしようか」
私は、削ったスライムさんを見た。
「さしあげます!」
「そう」
私は外に言って、バケツの水で洗ってみた。
スライムさんは水をふくむと大きくなるけれど、これは、あまり変わらなかった。
もうちょっときれいに洗おうと思って、バケツの中に全部入れて、もみほぐすようにした。
すると急に感触がなくなった。
「どうですか?」
スライムさんがやってきた。
「なんか、なくなっちゃった」
「じゃあ、もっとひげそりしますか!?」
「うーん。やめておく」
「ええ!?」
「大人は、ほどほどに、だよ?」
「! はい!」




