342 スライムさんと半分の半分の
スライムさんが始めたのはこんな話だった。
「これが、おうとに、とどきます」
スライムさんは、カウンターに置かれた紙を見て言った。
私の手よりも大きな紙だ。
「王都っていうのは一番大きな町だよね」
「そうです!」
「でも、遠いんでしょう?」
「じつは、それなりに……、とおいです!」
スライムさんは、ぴょん、とカウンターからとびおりた。
もどった。
「紙が届くっていうのは、運んでもらうってことだよね?」
「ふふ」
スライムさんは、口の端を上げるように笑った。
「どうです? かっこいい、わらいかたでしょう」
「たしかに、いつもとちがう」
「ふふ」
「あれ? もしかして、届けてもらわないってこと?」
「おっ、やりますね」
スライムさんはにやりとした。
「そうです! ぼくが、かっこいいわらいかたをした、ということは! とどけない、ということです!」
「そうだったのか」
私は考えた。
「でも、届けてもらわないなら、自分で届けるの?」
「ちがいます」
「ちがう……」
「かみを、おります!」
スライムさんは言った。
「紙を、折る?」
私は首をかしげた。
「はい。かみをおったら、2ばいのあつさに、なりますね?」
「うん」
「やってください」
私はスライムさんに言われたとおり、紙を折った。
「これを、なんどもやっていったら……?」
「え? 届くくらいの厚さにするってこと?」
「はい!」
「うーん、それはさすがに、何千回もやらないとだめじゃない?」
「ふふ」
スライムさんが例の笑い方をした。
「かっこいい笑い。ということは?」
「25かいぜんごで、とどく。そういう、はなしです」
「そんなにすくないの?」
「とりひきさきの、ひとが、いってました」
「そう。じゃあ、やってみる?」
私が言うと、スライムさんが目をキラリと光らせた。
「はい!」
「よし」
私はさっそく、数えながら折り始めた。
「あれ……?」
それは、7回目のことだった。
私は全体重をかけて、なんとか折ったのだが……。
「もう、ちょっと、無理なんだけど……」
私は折って折って、ぎゅうぎゅうになった紙を見た。
「そのひとも、いってました。10かいも、むりだろうと」
「スライムさん!? まさか、わかっていて、私をもてあそんだの……!?」
「ふふ」
「かっこいい笑い! かっこよくない状況なのに!」
「えいむさん」
スライムさんは、すこしも動じていなかった。
「ここを、どこだとおもっているんですか?」
スライムさんは重々しく言った。
「まさか……?」
「そうです。かみおりき。それくらい、ありますよ」
スライムさんは例の笑い方をした。
「これが、紙折り機?」
お店の奥から協力して出してたのは、ぱったん、となにかをはさむようになっている、金属の道具だった。
大きさと形は、分厚くて平らなフライパンを二枚、合わせたようなもの、というところだろうか。
奥のところがドアの金具のようにくっついていて、扱いやすくなっている。
「そうです! これに、はさんでみてください!」
「わかった」
私は、紙を置いて、鉄板を下ろしていった。
なめらかな動きで、ぱったん、と閉じた。
「開けてみるね」
中を見ると……。
「おっ」
すっかり平らになった紙があった。
「これで、おれますよ!」
「そうだね!」
私は2つにしてから中に入れて、ぱったん。
もう一回折って、ぱったん。
ぱったん……。
「……これで、25回だよ!」
私は鉄板を開いた。
平らな紙がある。
スライムさんは、例の笑い方をしていた。
そこで気づいた。
「! ねえスライムさん」
「かんどうしましたか? えいむさん」
「紙が平らだよ」
「そうですね! たたみやすいでしょう!」
「王都に届く話はどうなったの?」
「……おや?」
きっちりと折りたためることばかり追求してしまった私たち。
完璧に折れるけれど、紙の厚さは最初のままだ。
「私たち、なにかを、見失ってしまっていたんだね……」
「ぼくは、それをおしえたかったんです」
スライムさんは例の笑顔をする。
「本当は?」
「しっかり、おれてて、こうふんしました!」
「……これはこれで、おもしろかったよね」
「はい!」
私たちは、ぺらぺらの薬草をつくって、新食感を楽しんだ。




