340 スライムさんと乗馬
「すらいむくーいず!」
「わっ」
お店に入ろうとしたら、いきなりうしろから声をかけられた。
「スライムさん!」
「ふふ! とつぜんの、であいです!」
「びっくりした」
「そして、これが、もんだいです! ぼくはなにをしているでしょうか!」
ささっ、とスライムさんが移動する。
スライムさんは、木箱の上に乗った。大きさとしては、スライムさんと同じくらいだ。
その上で、上下に、はずんでいる。
はずんているといっても、とびはねているわけではなく、体が木箱にくっついたまま、ぽよん、ぽよん、と動いている。
「うーん?」
「どりぶら、じゃないですよ!」
「ドリブラ?」
ぽよんぽよん。
「ん?」
木箱の上で、はずんでいるスライムさんの動き。
ちょっとずつ、前に行こうとしているように見える。
「進んでる?」
「!?」
スライムさんは、目を大きく開いた。
「前の進んで、上下に、はずむ……」
「! う……」
「う?」
「う……」
「苦しい?」
「くるしくないです!」
「じゃあ」
うが関係ある。
「馬?」
「!?」
「馬に乗る練習?」
「せいかいです!」
スライムさんは、ぴょん、と箱からとびおりた。
「いやあ、さすがえいむさん! たったこれだけの、てがかりで、せいかいにたどりつくとは」
「重要な手がかりをいただけたのでね」
「ふふ!」
「でも、どうして馬に乗る練習してるの?」
「ぼくだって、うまにのりたい。そういうときも、あります。でも……」
スライムさんは、目をふせた。
「ぼくに、うまは、のれません……」
「乗ることはできるんじゃない?」
私が言ったら、きっ、と私を見る。
「ぼくがいっているのは、たずなをもって、かれいに、のる! そういう、じょうばです!」
「そっか。じゃあ、むずかしいか……」
「あきらめるんですか!」
「!?」
スライムさんの言葉に、私はびっくりした。
「できそうにない。むずかしい。だから、あきらめるんですか! ぼくは、えいむさんを、そんなこに、そだてたおぼえはありませんよ!」
「スライムさん……! 私もスライムさんに育てられた覚えはないよ……!」
「うまが、おおきいのは、わかっています! でも、だから、やらないんですか!」
私は、はっ、とした。
「たしかに……。できそうにないからあきらめる。そんなことをしてたら、できないことはいつまでもできない……」
「そうです!」
スライムさんが、きりっ、とした。
いつもよりも、きりっ、として見える。
「やるからこそ、できることが、ふえるんです!」
「そうだねスライムさん!」
「はい!」
「じゃあ、お父さんに言って、馬を飼ってる人のところで、私と一緒に乗る?」
「!? えいむさん、じょうば、できるんですか?」
「うーんと、ゆっくり歩くだけなら」
「!?!? えいむさんの、えいは、えいゆうの、えい……?」
スライムさんは、目をかがやかせた。
「そんなに大したことはないけど。馬に、ゆっくり歩かせて乗ってるだけで、全然大したことないけどなー。全然ー」
私は頭のうしろで手を組んだ。
「えいむさんが、うまにも、ちょうしにも、のっている……!」
「スラちゃん、馬、乗る?」
「!? なにかしらの、ぎょうかいじんのような、なれなれしさ……!」
「明日あたりどう?」
「……やめておきます」
スライムさんは、意外なことを言った。
「あれ? どうして?」
「ぼくは、やっぱり、ひとりでのるほうが、かっこいいとおもいます」
「そっか。そう言ってたもんね」
「はい。それに」
スライムさんは、箱を見た。
「このおおきさの、うまが、いる。そういうかのうせいも、あります」
「そんな可能性が!?」
「はい」
スライムさんは、私をまっすぐ見て言った。
……考えてみれば、これまでよろず屋で、小さい馬なんて大したことがないと思えるような、そんな商品を見てきた。
「じゃあ、練習しようか」
「れんしゅう?」
「そういう馬が来たときのために!」
「! はい!」
私は腕組みをして、スライムさんが箱の上でぽよんぽよんしているのを、見守った。
「もっとはずんで!」
「はいえいむさん!」
「もっとぽよぽよするよ!」
「はいえいむさん!」




