339 スライムさんとバンド
ドコドコ、ドコドコ、という音が聞こえてくる。
それはよろず屋の建物を通りすぎたところが発生源だった。
お店の裏手。
スライムさんがいた。
地面に、木の板が置いてあって、その上に、縦になった太鼓があった。
その前でスライムさんは木のバチをくわえて、体を左右にねじる。すると、バチの右端、左端が太鼓にあたって、ドコドコ、ドコドコ、と音を立てるのだ。
「熱心だね」
私が言うと、スライムさんが振り返った。
「ほんひひは!」
私はスライムさんがくわえているバチを回収した。
「こんにちは、えいむさん!」
「こんにちは。演奏中?」
「そうです! たいこが、てにはいったので!」
「調子はどう?」
「ふふ。どこどこです!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
私は、持っていたバチで軽く太鼓をたたいた。
どん、と音がした。
「体にひびくような音だね」
「わかりますか」
スライムさんは、うんうん、と私を見た。
「えいむさんは、たいこ、やったことあるんですか?」
「ないよ。いま初めてたたいた」
「! やりますね!」
「ふふ。でしょう」
私はまた、どん、とたたいた。
「ぼくも、まけられないですね!」
「がんばって」
「そうだ。ばんどを、くみますか?」
スライムさんは言った。
「バンドって?」
「ばんどというのは……。なんにんかが、あつまって、みんなでたいこをたたくことです!」
「そうなの?」
「はい! いっぱんてきに、わかいひとは、ばんどをくむことで、もてもてになります」
「モテモテに?」
「はい。2ばいから、37ばいくらい、もてるようになります」
「そんなに! 太鼓に、そんな力が……」
「はい。ぼくも、もてもてになれば、おみせがたいへんなことになります!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「じゃあ、みんなバンドを組めばいいのにね」
「たしかに……。どうして、くまないのか……」
「モテたくないのかな」
「えいむさんは、モテモテに、なりたくないですか?」
「うーん。朝から夜まで、男の子たちが私の家の前を取り囲んで、エイム様、エイム様、ってうっとりした顔になるっていうことでしょう? それも大変かなあ」
「! 37ばいだとしても、さいしょから、すごいちからだと、いうことだ! さすがえいむさん!」
「ふふ。あ、それに、スライムさんも、お客さんが山ほど来ちゃうよ?」
「……」
スライムさんは、にこ、と笑った。
「えいむさん、たいこをどうぞ……」
「あれ? スライムさん?」
「ぼくには、たいこは、はやかったみたいです……」
「え、やればいいのに。もったいない」
「ふふ」
「お客さんが多すぎたら嫌だってわけじゃないよね?」
「……。では……」
「バンドを組まなければいいんじゃないの?」
「!?」
去りかけたスライムさんが、ぴたりと止まった。
「ひとりで、太鼓を楽しめばいいんじゃない?」
「ひとりで、たのしめば、いい……?」
「じゃ、私がたたいちゃお」
ドン、ドン、ドン。
ドドン、ド、ドン。
「えいむさんが、ぼくと、ちがうりずむを、きざんでいる……!?」
「はいはいはいっと」
私がたたいていたら、スライムさんが、ぴゅっ、といなくなった。
機嫌を悪くしてしまっただろうか。
するとすぐもどってきた。
口には、バチをくわえている。
「ふがふが!」
スライムさんは、反対側から、ドコドコたたいた。
「お、やるね」
スライムさんの音がやんだとき、私はドドンドドン、とたたく。
「ふばふば!」
「えいえい」
私たちは、ひとつの太鼓をたたいて遊んだ。
「これはバンド?」
「ふが!」
スライムさんは、びくっとしてバチを落とした。
「えいむさん!」
「なに?」
「こうたいで、やりましょう!」
「いいよ!」
ドコドコドコドコ、ドドンドドン!




