335 スライムさんと反響
「こんにちは」
お店の中に入りながら言ったときだ。
「こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは」
私の声が三回聞こえた。
「いらっしゃいませ!」
スライムさんがカウンターの上にのる。
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ!」
「なにこれ」
「なにこれ」
「なにこれ」
「なにこれ」
「じつはですね」
「じつはですね」
「じつはですね」
「じつはですね」
私は無言でスライムさんを抱えて、お店を出た。
「というわけなんです!」
お店の外で話をしたら、声はひびかない。
「じゃあ声が何度もひびいたのは、昨日仕入れたなにかが関係してそうってこと?」
「はい! おかげで、ねだんがたいへんです!」
「値段が?」
「10ゴールドです! 10ゴールドです! 10ゴールドです! 10ゴールドです! となって、40ゴールド、ほしがってるみたいに、なってしまいます!」
「なるほど」
言った言葉に続いて、3回聞こえてくるから、4回分になってしまう。
「いったいなにを仕入れたの?」
「そんなものをいちいち、きろくしていると、おもいますか!?」
「記録しないとだめだよ」
「まあ、そうですね」
スライムさんは冷静に言った。
「でも、いまだいじなのは、なんですか!?」
「この状況を、なんとかすること?」
「そのとおり!」
スライムさんは、びしっ、と言った。
私たちはお店の中に入る。
見慣れないものがあやしいのだが。
ふと、入ってすぐのところ、入口の横に置いてあるものが気になった。
「これは?」
「これは?」
「これは?」
「これは?」
私は口をおさえた。
しゃべらないようにしよう、という気持ちで私はスライムさんを見た。
スライムさんも、わかってます、というように私を見る。
「だまってます!」
「だまってます!」
「だまってます!」
「だまってます!」
惜しい。
私は、スライムさんと外に出た。
「どれを買ったとか、覚えてるものはある?」
「あります! いりぐちの、ところのはこです!」
スライムさんは言った。
入り口を正面から見るのではなく、斜めから見ると、入ってすぐ、右手のところにある箱がちょっと見えた。
「あのはこは、なかにしゃべると、こえが、ひびくはこです!」
「おや?」
おやおや?
「でも、ちがうとおもいます!」
スライムさんは言った。
箱が原因なら、と私は中に入って、箱を持って外に出た。
箱は厚紙でできているみたいな重さで、大きさは、私の頭くらいだろうか。
「これが原因かな」
私は箱を持ったまま言い、耳をすませる。
声はひびかない。
スライムさんが、ちょっと得意げに私を見ていた。
私はせきばらいをした。
「このたび私は、スライムさんが、初歩的な失敗をしてしまったとかんちがいをしてしまいましたことを、おわびいたします」
「いつもすらいむさんが、しょほてきなしっぱいをするとは、かぎらないんですよー!」
「そうだそうだー!」
スライムさんが左右に移動しながら何役もこなしつつ、やじを飛ばす。
ガラが悪い。やじイムさんだ。
「まことに、私の思い込みで、スライムさん、ならびに、スライムさんの関係者を傷つけてしまったことを、ここにおわびします」
「はんせいしてるのかー!」
「すらいむさんに、もうはたらなくてもいいって、いえー!」
「スライムさんは、働かないといけないと思います」
「! ろうどうはんたーい!」
「すらいむさんは、やすめー!」
「思い込みに関しては、謝罪いたしますが、労働に関しては、働いてください」
「おにー!」
「えいむおにー!」
スライムさんが興奮しているので、私はいったんお店に入った。
「にげるのかー!」
「働いてください」
私はまた言う。
……あれ?
「ひびいてない」
お店の中で、音がひびいていない。
「ほんとうですね」
やじスライムさんが正気にもどった。
私は、さっき外に置いた箱をお店にもどした。
「スライムさん」
「スライムさん」
「スライムさん」
「スライムさん」
これはいったい。
箱を持って、私たちはお店を出た。
「スライムさん」
私は箱の空いているところに顔をつけ、しゃべった。
すららいむらいむささんあん、のように、ぼやぼやとひびいた。
私は顔を上げた。
「どうやら、これが原因のようです」
「ぼくが、まちがっていました。えいむさん、ならびに、えいむさんのかんけいしゃのかたがた。たいへん、ごめいわくとごしんぱいをおかけしました!」
「あやまれてえらい」
「!! えいむさん!!」
「さて。これが、よろず屋に置いてあるときだけ、声が響くってことかな」
「そのようですね!」
私は、お店の中にもどって、カウンターの上に置いてみた。
「スライムさん」
……、ひびかない。
他の場所に置いてしゃべっても、ひびかない。
でも、最初スライムさんが置いた場所に置くと。
「スライムさん」
「スライムさん」
「スライムさん」
「スライムさん」
ひびく。
でも、ちょっとでもずらすと、ひびかない。
「不思議だね」
「はい!」
「なにかの役に立つかな?」
「たつかもしれません!」
「覚えておこうね」
「はい!」
そして、入口に箱があるのはじゃまだから、とてきとうに奥にしまわれて忘れられてしまうのは数日後のできごとであった。




