スライムさんと全集中
「やくそうをたべています」
スライムさんはカウンターの上で言った。
「まさか、食べていないのに、食べていると言うとはね」
「いがいせいの、すらいむです!」
スライムさんは、にやりとした。
「ところで、えいむさん。ぜんしゅうちゅう、ってしってますか?」
「全集中? 全部集中ってこと?」
「はい! いま、まさに、おおきなまちでは、はやってるらしいです!」
スライムさんは、きりっ、とした。
「ぜんしゅうちゅう……。みんながみんな、いってるらしいです! はやりの、はやりです!」
「そうなんだ。全集中……」
私も、きりっ、としてみた。
「それです!」
「全集中ってなんなの?」
「ぜんぶしゅうちゅうです!」
「でも、集中って、全部なんじゃないの?」
私が言うと、スライムさんが、きりっ、から、ふにっ、とした。
「また、えいむさんが、おかしなことを……?」
スライムさんが私を見た。
「集中って、全部を集めるんじゃない? だから、集中はそもそも、全集中かなって」
「たしかに……? では、ぜんしゅうちゅうは……?」
「なんだろう」
大きな町で有名だというのだから、みんな、それなりに納得して使っているのだろう。
「全集中」
「あと、こきゅうです!」
「呼吸?」
「ぜんしゅうちゅう! すらいむの、こきゅう!」
「スライムの呼吸?」
私はスライムさんを見た。
「そういえばスライムさんって、呼吸してるの?」
空気を吸っても、肺に取り入れるわけでもないから、すぐ出てくるようにも思う。
でも人間も吸ったらすぐ出てくると思ったら、無意味でもないのかもしれない。
体内に空気を取りこんで、なにかして、出している。そういう可能性もあるか。
「すてます!」
「呼吸しているのか、してないのか、微妙な返事だね」
「はい!」
「スライムの呼吸も流行ってるの?」
「それはいま、ぼくが、かってにいいました!」
「そっか」
スライムではなく、なにかの呼吸。
集中して呼吸。
「みんなでやってるんだよね?」
「はい!」
「ということは、体操とか、かな」
「たいそう?」
「全集中っていうのは、全員集まって集中しましょう、っていう合図かもしれない」
たくさんの人が集まって、全集中! とかけ声をかける。
それから、みんなで速く呼吸をしたり、ゆっくり呼吸をしながら、体を動かす。
「そうすることで健康になる」
「なるほど! たいそうのなかの、かけごえ!」
「全集中! 屈伸の呼吸!」
私は言って、足を曲げて、のばした。
「おお!」
「全集中! 背中伸ばしの呼吸!」
私は体をそらした。
「おお!」
「全集中! ……スライムさんは、なにかある?」
「ええと……。よこのびのこきゅう!」
スライムさんが、横に広がった。
「むずかしい」
私は足を大きく開いてみた。
「ぜんしゅうちゅう! たてのびのこきゅう!」
スライムさんが縦に伸びた。
「はい!」
私はつま先立ちになった。
「いいぞ、えいむくん!」
「はいスラ先生!」
「それでわれわれも、ぜんしゅうちゅうだ!」
「はい! 二人だから、全員そろえるのがかんたんで、いいです!」
「はっはっは! ぜんしゅうちゅう、ねじりのこきゅう!」
「はい!」
私たちは外に出て、全集中体操をした。




