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326 スライムさんと奥さん

「えいむさん、ちょっと、けっこんしてもらえますか?」

「ええ!?」


 あいさつもそこそこに、お店の前にいたスライムさんが言った。

 私たちはいったんお店の中に入った。

 そして、スライムさんと外にでる。私は、スライムさんに続いてお店の外に出た。


「どうも、どうも」

 スライムさんが、左右に向き直りつつ、進んでいく。

「誰にあいさつしてるの?」

「たくさん、ひとがいるという、じょうきょうをそうていしています! おくさんを、したがえて、でてくるのを、やりたかったので!」

 ふう、とスライムさんは言って、振り返った。


「おわったので、だいじょうぶです! りこんしましょう!」

「短い結婚生活だった」

「おくさんは、おわりです!」

「これがしたかったの?」

「はい! じきてきに!」

 どういう時期だろう。


「そういえば、奥さんっていろいろ呼び方があるんだよね」

「どういうことですか?」

「お嫁さんとか、家内とか、女房とか」

「えっ?」

 スライムさんが、くるりとまわった。


「どうしてそんなになるまで、ほうっておいたんですか!」

「えっ」

 今度は私がくるりとまわった。


「どういうこと?」

「みんな、すきなよびかたをしていたせいで、よびかたが、らんりつしてしまったんですよ!」

「それはそうかもしれない」

「とういつ、しましょう!」

 スライムさんは、すこし縦にのびた。


「統一か……」

「いみは、ちがうんですか?」

「えっと……。私も詳しくはないけど、ちょっとずつちがうような……」

 私は、考えながら話した。


「まず、家内が、家の中にいるから家内なのかな」

「かないは、いえのなか」

「奥さんは、家の奥のほうにいるから、奥さん」

「おくさんは、いえのおく」

「お嫁さんは、家の横に女、って書くみたい」

「およめさんは、いえのよこのおんな」

「あと、妻は、結婚した女の人」

「つまは、けっこんしたおんなのひと」

「女房はよくわからないけど、房は、部屋っていう意味があったような」

「にょうぼうは、おんなのへや」

「あとか、おかみさんとか? お店の、女の店長さんとかのことも言うみたい」

「おかみさんは、てんちょう」

 スライムさんは、聞くたび、すこしずつ体がねじれていった。


 そしてほどけた。


「……だいたい、わかりました」

「わかったの?」

「よびかたは、いえの、どこにいるかで、きまります!」

 スライムさんは言った。


「どういうこと?」

「ぼくが、えいむさんのいえにいったとします」

「うん。いらっしゃい」

「こんにちは! そこに、えいむさんの、おかあさんがいたら?」

「家の中だから、家内?」

「そうです! ちかくに、いなかったら?」

 スライムさんは、ぴょん、ととんだ。


「奥にいたら、奥さん?」

「そうです! ちなみに、かないでもあります!」

「なるほど」

 奥さん、かつ、家内。


「でも、奥の方にいなかったら?」

「てまえのほうなら、にょうぼう、かないです!」

「そっか。女房は、部屋だもんね」

「はい!」

 女房、かつ、家内。


「じゃあ、家の外にいたら?」

「いえのよこは、よめです! かないでは、ないです!」

「なるほど」

 嫁は、家内ではない。


「そして、てんちょうなら、おかみさんです! かないかどうかは、わかりません!」

「たしかに。そうか、呼び方は、いる場所が重要だったんだね」

「そうです!」

 スライムさんは、ぴょん、ととんだ。


「いやあ、かいけつして、すっきりしました!」

「今日もスライムさんは、さえてるね」

「すらいむさーん! とよんでください!」

「スライムさーん?」

「はい!」


 私は、ふと思った。


「うん。……あれ、どれか忘れてない?」

「なんですか?」

「えっと。妻だ。妻はなに?」

「つまは……」

「結婚した女の人っていう意味だね」

「……」

「……」

『つまだ!』

 私とスライムさんは同時に言っていた。


 家の場所にも、職業にも関係ない!

 妻!

 わかりやすい!

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