317 スライムさんと浮く枠
「こっちですよ!」
お店に入ろうとしたら、どこからかそう聞こえた。
横かな? 裏手かな? と歩いていったら。
「……なにそれ」
私の頭の上の高さに、スライムさんがいた。
スライムさんは、ふわふわと浮いている金属の枠の上に乗っていた。
縦横は、私の使っているベッドのような大きさの、縦長だ。枠の幅はスライムさんよりも狭くて、手のひらくらい。平べったくて、厚みは私の手よりも薄い。
「ういています!」
「浮いてるね」
「すごいでしょう!」
「すごい」
私が言うと、スライムさんは満足そうにした。
「これをおうようすると、とんでもないものが、つくれるんです!」
「浮くベッドとか、作れそうだね」
「!!」
スライムさんは、ぴょん、と浮く枠から降りてきた。
「えいむさん……、しってました?」
「なにを?」
「ぼくの、こうそう、を!」
「知らないけど。私のベッドが、それくらいの大きさかなって」
「すごすぎます! すごすぎて、すごくないです!」
「へへへ。照れすぎて、照れてないよ」
私たちはニコニコした。
「浮くベッドって、どんなところが便利なの?」
「ふふ。えいむさんは、はんもっくは、しってますね?」
「うん。木にひっかけて、寝られる網みたいなやつだよね」
「ゆらゆらして、きもちがいいですね?」
「うん」
「きが、なくても、はんもっくができるとしたら……?」
「!?」
「なんということでしょう……!」
「えいむさんも、きづいてしまいましたね。きなし、はんもっくの、すごさに」
「これは、いますぐつくるしかないね」
「でもえいむさん。はんもっくって、ふあんてい、ですよね……?」
「まさか! 安心して寝られるように、ベッドに……!?」
「ふふ」
今日のスライムさんは、スキがない。
「安心して眠れるハンモック。それが、ふだんから使える……!」
「そうです。ちがいます」
スライムさんは一瞬で反対のことを言った。
「どういうこと……!?」
「ふだんも、とくべつも、できます。たとえば、かわのうえでも、みずうみのうえでも……」
「そんな、ことが……!?」
「ふふ」
今日のスライムさんは、スキがない。
「はんもっくのようなべっど。はんべっどです!」
「半分のベッドみたいだね!
「はい!」
「これは、よろず屋も大繁盛して、大人気だね!」
「はい! いそがしいのは、めんどうですけど! めんどうですね……」
スライムさんの表情が、すこし、くもった。
どんなふうに使うのがいいだろう。
ベッドというより、もうちょっとかんたんな作りのほうがいいかもしれない。ベッドだと、重くて危ないかもしれないからだ。
どれくらいの重さまでのるのだろうか。
そんなことを考えたときだった。
「……おや?」
私は、ふと気づいた。
「浮いてた枠は?」
まわりを見ると、スライムさんが乗ってきた枠が見当たらない。
「ないですね」
スライムさんがきょろきょろする。
「どこか、とんでいっちゃいましたかね」
「え? いいの?」
「よくないですけど……。まあ、そういうことも、ありますよね」
スライムさんは、さっぱりと言った。
「もしかして、お店がいそがしくなりそうだから、どこかに行きそうなのを見逃したの?」
「そそそんなわけないじゃじゃじゃないですか! えいむさん!」
「そうだよね。いくらスライムさんでも」
「そうです!」
「じゃあ、残念だね」
「そうです! とってもざんねんでしたよ! あーあ、ざんねんです!」
スライムさんは、私をチラチラ見ながら言った。
「まあでも、新しいのを作ればいいんだよね?」
私が言うと、スライムさんは難しい顔をした。
「そんなに、かんたんに、たくさんつくれるものではないんですよ、えいむさん」
「さっきは、そんなこと言ってなかったような……!?」
「しごととは、むずかしいものなんですよ。むずかしいものなんですよ……!」
スライムさんが、大きな声でなんとかしようとしている。
「そっか。大変だね」
「はい!」
なんとかなった。




