310 スライムさんとしあわせになるグミ
「えいむさん、しあわせになりたいですか?」
私が薬草を買ったあと、スライムさんが急に言った。
「え? うん」
「おや? しあわせになりたいですか? ときかれたら、ふつうのひとは、あやしむ、ときいたんですけども」
スライムさんがふしぎそうにした。
「私は、なかなか大物のようだね」
「! さすがえいむさん!」
「ふっふっふ」
「では、これをどうぞ」
スライムさんは、カウンターの端のところにあった箱を、ずずず、と中央に押してきた。
なんだかキキキ、と高くて耳ざわりな音がする。
「うるさいですか?」
「ちょっとね」
「あんしんしてください! おわりました!」
スライムさんは、むん、とふくらんだ。
「あけてください!」
私は箱を持った。どうやら、箱はかぶせてあるようだ。
箱を取り上げると、皿があった。これの底がカウンターにこすれて、嫌な音を出していたらしい。
皿には小さな粒がのっている。5つだ。
私の親指の第一関節くらいの大きさといったらいいだろうか。
青くて透き通っていて、スライムさんの色に似ている。
「これは、ぐみです!」
「グミ?」
「はい! しあわせになる、ぐみです!」
「しあわせ」
「そうです!」
だからしあわせの話をしたのか。
スライムさんは、グミののっているお皿を、軽く押した。
キキ、と音がした。
「しあわせじゃない音だけど」
「それは、ぐみのおとではなく、おさらのおとです!」
「なるほど」
たしかに。
「これを、どうするとしあわせになるの?」
「そこからは、ちょっと」
スライムさんは、むむ、と困ったように口を閉じた。
「スライムさん、ごぞんじではない……?」
「ええ、くわしいことは、ちょっとわかりませんね」
スライムさんは、真剣な顔で言った。
「さわっても平気?」
「はい!」
私はグミをつまんだ。
「おや?」
これは……。
「なにかわかりましたか!?」
「色がスライムさんに似てるから、ちょっと思ったんだけども」
「はい」
「やわらかくて、弾力がある」
「ぼくとおなじですか?」
「スライムさんより、硬い。しっかりしてる」
スライムさんはもっと、水が形を持ったようなやわらかさがある。
といっても、スライムさんの意思によって、多少かたさも形も変わるからなんともいえないところもあるけれど。
「これを、ぐにぐにやっていると……」
「やっていると?」
「ちょっと、しあわせかも」
私は指で、グミをぐにぐにと、つまむように押した。
適度な弾力が指を押し返してくる。
それがおもしろい。
「いや、ぐにぐにではなく、ぐみぐみ……?」
私が言うと、スライムさんが、はっとしたように私を見る。
「それが、なまえの、ゆらいですよ!」
「なるほど」
グミは、ぐみぐみ、ということだったのか。
「手ざわりがいいね」
「ぼくよりも、ですか?」
スライムさんは、ちょっと残念そうに私を見た。
「スライムさんの売りって、手ざわりなの?」
「! ちがいます! べつに、そうでもないところです!」
「じゃあいいでしょ」
「はい! ぼくもさわります!」
私は、スライムさんの横にグミを置いた。
私もさわる。
「グミグミ」
「ぐみぐみ!」
「グミグミ」
「ぐみぐみ!」
私たちは、はっ、と気づくと、しばらくグミグミしていたようだった。




