309 スライムさんとかたづけ
お店に入ると、カウンターの上にはスライムさんがいた。
スライムさんの近くには、薬草の切れ端のようなものがふたつ。
それに、カウンターの手前には、スライムさんの身長くらいの、ふみ台のようなもの。
「なにかしてたの?」
「そうですね」
「ふうん。かたづけするなら、手伝おうか?」
「えいむさんなら、そう、いってくれるとおもっていました!」
スライムさんの目が、かがやいた。
「お、私をあてにしてたんだね?」
「そうです。いいえちがいます」
「まったく逆のことを言ったね」
「ぼくは、つねづね、おもっていることがありましてね」
スライムさんは、私を見た。
「なに?」
「かたづけ。はたして、ほんとうにひつようなものなのかな、と」
「必要でしょ」
私はすぐ言った。
「はたしてそうでしょうか」
スライムさんは、なんだか、自信ありげだった。
「かたづけしなくてもいい理由を見つけたの?」
「えいむさん! ぼくを、かたづけないりゆうをさがしているだけの、そんなじかんがあったらさっさとかたづければいいやつ、みたいなめで、みないでください!」
「そんな具体的ではないよ」
「おおまかには、そういうめを、していた……!?」
スライムさんが、ちょっとさがった。
「もっと、おおまかだよ」
「それは……?」
私は、息をすって、はいた。
「かたづけようよ」
「ぐたいてき……!」
スライムさんは、すこししぼんだ。
「じゃあ、これはどこに持っていく?」
私が、ふみ台を持ち上げようとしたときだった。
「ちょっとまってください!」
スライムさんが鋭く言う。
「うん? これは、動かしちゃだめだった?」
「えいむさんは、いま、なぜ、それをもとうとしたんですか!?」
「え? 近くにあったし、それに、これが一番じゃまかなあ、って」
カウンターの前にあるけど、それに乗る必要はない。
だからその場所がとられてしまって、じゃまに思えたのだ。
「それです!」
「え?」
「それこそが、かたづけが、いらないりゆうです!」
「どういうこと?」
私は、ぽかんとしてしまった。
「えいむさんは、それをかたづけようとしました。そのしゅんかん、かうんたーのうえの、やくそうのきれはしは、どうですか?」
「どうって? あとでやろうかなって」
「それです!」
スライムさんが鋭く言う。
「そそそそれです!」
「のりのりだね」
「きれはしは、かたづけなくて、いいということが、わかりましたね!?」
「うん?」
「ふみだいをかたづける。それがおわるまでは、やくそうは、どうでもいいんです! ということは、ですよ? ふみだいをかたづけなければ、やくそうは、かたづけなくていいんです!」
スライムさんは言った。
「ええと……。つまり、ふみ台をかたづけるってことは……、他のは、あとまわしになるから……」
「はい! だから、ふみだいをそのままにする。それは、ちょっと、じゃまかもしれません。でも、ふみだいがじゃまだな、とおもうだけで、ぼくらは、ふみだいをきにすれば、いいだけなんです! あとまわしにするものは、あとまわしにする。そのていどのものだから、じゃまじゃない! かたづけなくても、いいんです!」
スライムさんによれば、一番じゃまなものを気にしていれば、他のものはそんなにじゃまじゃないはずだから、かたづけなくていい、ということらしい。
「わかりましたか!?」
「わかったけど……。ええと……」
「わかってくれて、よかったです!」
スライムさんはにっこり笑った。
本当はよくわかっていない。
これでいいのか?
スライムさんが喜んでいれば、それでいいのか……?
ちゃんと、言うべきことを言うべきじゃないのか……?
かたづけよう、と……。
「じゃあ、やくそうをたべましょう! これ、じゃまですね!」
スライムさんは、薬草の切れ端をさっさっ、と集めて横の箱に捨てた。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない」
言わなくても、だいじょうぶそうだった。




