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308 スライムさんと旧よろず屋

「おや?」


 よろず屋の入り口に、なにか看板が出ている。

 木の板に、よろず屋ではない、と書いてあった。


「よろず屋ではない……」

 では?


「ねっしんに、みてますね!」

 気づけばすぐそばにスライムさんがいた。


「あっ、スライムさん、こんにちは」

「こんにちは! ぼくは、いつでも、そのへんにいますよ!」

 スライムさんは、えっへん、と上機嫌だった。


「よろず屋ではないって、なに?」

「てんめいを、かえようかとおもいましてまして」

「ましてまして? どうして?」

「きぶんてんかんです!」

 スライムさんは、むん、とふくらんだ。


「なるほどね。だったら、すぐ名前をもどすかもしれない。私は安心した」

「? えいむさん、こころのこえが、でてますよ!」

「えっ、そうだった? うっかりうっかり」

 私が頭をかくと、スライムさんが笑っていた。


「どんな名前にするか、決めたの?」

「はい。ですが……」

「どうしたの?」

「もんだいがあります」



 スライムさんはカウンターの上に乗った。

「ぼくは、むこくせきだいにんぐ、すら、というなまえにしようと、おもったんです」

「無国籍だい……? ええと、それはスライムさんが考えたの?」

「いろいろなひとのはなしを、まにうけて、かんがえました!」

「ふうん?」

「ですが、これにはもんだいがあります」

「覚えにくいとか?」

 私が言うと、スライムさんは、きっ、と私を見た。


「わっ。えっと」

「そのとおり!」

 ズバっと自分で言ってしまった。


「そういうなまえが、どうなるか。わかりますか? えいむさん」

「うーん。省略して呼ぶかなあ。もしくは」

「そうです!」

 スライムさんは、ぐん! と前に出た。


「まえの、なまえを、よぶんです」

「なるほど」

 私は思った。それでは、名前を変えた意味がない。


「どうしたらいいのか……」

 スライムさんは肩もないのに肩を落としていた。


「名前を変えなければいいんじゃない?」

「なまえのへんこうを、する、ぜんていで、かんがえましょう!」

 スライムさんは言った。


「でも私は気がすすまなかった。覚えにくい名前というのもあるが、意味がよくわからなかったからだ。よろず屋のほうがわかりやすいし、人の説明もしやすい。結局、ああ、よろず屋ね、となってしまうような」

「えいむさん! また、こころのこえが!」

「えっ、ああ、ごめんね」

「……そうですね。よろずやのほうが、わかりやすいですよね……」

 スライムさんは、しゅん、とすこししぼんだ。


 心の声ということにして、思ったことをそのまま言っただけなのだけれど、でも、これでよかったんじゃないかと思ってしまう……。

 うん?


 スライムさんの目に、力がもどった。


「えいむさん」

「スライムさんが、すこしふくらんでいる。体が、ぱんぱんに」

「ぼくは、あたらしいのに、あたらしくない、というなまえを、おもいついてしまいましたよ……」

「どういうこと?」

「きゅう、よろずやです」

「旧よろず屋」

「そうです」


「なまえをかえても、ぜったいにわすれられることはない。なぜなら、よろずやだからです!」

「そうだね?」

「さらに、もし、あたらしいなまえ、なんだっただろう、とおもっても、むかしよろずやだったところだ。きゅうよろずや。きゅうよろずやだ! と、しぜんと、あたらしいなまえに、たどりつきます!」

「なるほど? じゃあ、前よろず屋でもいいね」

 私が言うと、スライムさんがかたまった。


「あ、えっと、旧でいいよ?」

「たしかに! いろいろな、むかしのいいかたが、あります!」

 スライムさんは、ふくらんだ。


「いろいろな、きゅうを、さがしましょう! えいむさん!」

「スライムさんが燃えていた。仕事のことで燃えているスライムさんを見たのはいつぶりだろう。私も、スライムさんの力にやろう。そう思って、スライムさんに向かってうなずいた」

「はい!」

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