306 スライムさんとスラ
お店の外から声が聞こえてきたので、ひょいっと中をのぞいてみる。
「すらいむすらいむ、すらいむだー、あなたがおもうよりぷにぷにです!」
スライムさんがカウンターの上で、なにか歌うように、ぴこぴこ動いていた。
なんだか目つきがいつもより鋭い。
「……こんにちは?」
「いっさいがっさい、こんにちは、えいむさん!」
いつもどおりの目でスライムさんがこっちを見た。
「なんだかごきげんだね?」
「すらです!」
スライムさんは言う。
「スラ?」
「すらいむすらいむすらいむだー、あなたがおもうよりぷにぷにです!」
スライムさんは歌うと、どうだ、というように私を見た。
「それがスラ?」
「そうです。これでぼくはもう、はたらかなくて、よくなります!」
むん、とふくらんだ。
「どういうこと?」
「すらというのは、とてもにんきがあって、とてもおかねがもうかるので、もう、はたらかなくてもいいんです!」
「ふうん。私もスラをしたら働かなくていいの?」
「えいむさんのばあいは、えいです」
「エイ」
「そうです」
「あなたが思うよりぷにぷにです?」
「ちがいます」
スライムさんはすぐ否定した。
「そうだよね。私はぷにぷにしてないもんね」
「そういうことではないです。もっと、はくりょくをだしてください! さけぶような、それでいて、きもちいいうたごえです!」
「ふうん?」
なかなかスラは、じゃなくてエイは難しい。
「あと、こうです」
スライムさんは、きりっとした。
「顔?」
「そうです。じゃあ、すら、ちゃんとやりますよ?」
「わかった」
私が言うと、スライムさんの目が鋭くなった。
「だんだん! スライムとはー、だんだん! ぷにぷにとはー、だんだん! それがなにか、みせつけて、あげるー!」
スライムさんが歌い出す。
私は手拍子しながら聞いていた。
「どうもありがとうございましたー!」
歌い終わったスライムさんが遠くを見ながらお礼を言った。
「これがスラ」
「はい! はあ、はあ」
「大変そうだね」
だいぶ大声だったし、叫ぶように歌うところも多かった。
「一番のうりは、やっぱりスライムスライムスライムだー、のところ?」
「そうです! ……」
スライムさんがちょっと不満そうな顔になった。
「どうかした?」
「みせつけて、あげるー? みせつけて、あげるー?」
なにか言っている。
「なにかちがう気がするの?」
「はい……」
「まあそれは、何度か練習して改善していこうよ! 私もおうえんするよ」
「えいむさんもやってください! ぷにぷにですし!」
「は?」
「ぼくのすらはもう、おわったので!」
「今日の分は終わり?」
「いえ、えいきゅうに」
スライムさんは言った。
「え? もうスラは終わりでいいの?」
「はい! まあまあうたったので、あとは、もう、はたらかなくてもいいです!」
「そういうのって、何度もお客さんにやってみせなきゃいけないんじゃないの?」
「え……?」
スライムさんが止まった。
「そんなばかな?」
「だって、一回だけじゃ、スラのこと知らない人ばっかりになっちゃうよ」
「えむぶいをみたら、じどうてきに、もうかるのでは?」
「えむぶいって?」
「わかりません」
スライムさんはぷるぷる揺れた。
そしてはっとしたように、私を見る。
「……じゃあ、こんなにつかれることを、なんども?」
「そうだよ」
「そんなばかな! たいへんすぎる! しんでしまう!」
「私も、ちょっと大変そうだからやめとくよ」
「ぷにぷになのに」
「は?」
「それに、えいむさんのほうが、むいてるかもしれないですよ」
「まだぷにぷにの話する?」
私は知らないうちに腕を組んでいた。
「うたうのが、うまいかもしれません!」
「あんな歌い方しないといけないなら、のどがちょっと、もたないかもしれないなあ」
「のどですか?」
「スライムさんてどうやって歌ってるの?」
私はスライムさんを抱えた。
「わっ」
「ちょっとうたってみて」
「だんだん、すらいむとはー」
「おっ」
振動が伝わってくる。
「ぷるぷるしてる」
「だんだん、ぷにぷにとはー」
「ぷるぷるしてるよー」
「それがなにか、みせつけて、あげるー!」
「わー!」
私はスライムさんを抱えたままお店の外に出た。
「すらいむ、すらいむ、すらいむだー!」
「あなたが思うよりぷにぷにです!」
「やっぱり、えい、のぷにぷに、いいですね!」
私はスライムさんに体がふれていることに気づいた。
「私のぷにぷにを感じてる?」
「はい!」
「わざとぷにぷにの話、してるよね?」
「すらいむすらいむ、すらいむだー!」
「ちょっと裏で話そうか」
「……あなたがおもうより、ぷるぷるでーす!」
スライムさんは、ぷるん、と揺れると、私の腕の中から抜けて逃げ出した。
「待てー!」
「あなたがおもうより、すらすらでーす!」




