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305 エイムとろうそく

 私はカウンターの中にいた。

 留守番である。

 スライムさんは、ちょっと出かけてくるので、ということだ。


「なにをするかは、あえてきかないよ」

 私がにやりとしたら、スライムさんもにやりとしていた。


「すぐかえりますよ」

 にやり。


 なにを企んでいるのだろうか。

 ちょっとわくわく。

 わく。


「ん?」


 スライムさんがいなくなってしばらくして、入り口の向こうに人影が見えた。

 男の人だ。なんだかすごい猫背で、お腹を隠すようにしながらきょろきょろと、こっちにやってくる。

 お店に入ってきた。


「ここは……」

 男の人はカウンター、まわり、それから私を見た。


「ろうそくは置いてるか!」

 男の人は大きな声で言った。

 髪の毛がぼさぼさで、疲れた顔をしている。服は、膝のところが土で汚れていた。転んだのだろうか。

 お腹のあたりでなにかを隠すようにしているが、光っている?


「ろうそく……」

 よく知らない、と言おうとしたけれど、昨日掃除を手伝ったときに見かけたろうそくがあった。

 私はカウンターの端、ちょっと見づらい場所にあるろうそくを取り出し、カウンターに置く。


「お、おお!」

 男の人は大きな声を出し、勢いよく近づいてきたので私はすこしさがった。


 そのとき男の人が持っているものが見えた。

 ろうそくだ。

 小皿の上にのった背の低いろうそくは、いまにも燃えつきそうだった。


「こ、これで!」

 男の人は震える手で金貨を三枚出してカウンターに置いた。


「こんなには」

「はあ、はあ……」

 いりません、という私の声も聞こえないようだった。

 男の人は、背が低くなって薄くなったろうそくをつまむと、慎重に、火を新しい細いろうそくの先に近づけた。


「消える……、消える……、消える……」

 男の人は目を大きく開いて、ぶつぶつと言いながら火を……。

 息が詰まるような時間だった。

 私もつい、近づいていってしまう。


「やった!」

 移すことができたとたん、前のろうそくの火が消えた。

 男の人は喜びをかみしめる。


「ふう」

 そして私は、止めていた息を深く吐いた。


 火がゆれて、消えてしまった。


「あっ」

「あっ」


 私と男の人は同時に言って、男の人が倒れた。


「えっ?」

 倒れてしまった男の人は動かない。


「えっ、えっ」


 私はカウンターから出て、男の人の肩をさわった。

「だいじょうぶですか? だいじょうぶ? ええ?」

「離れて」

 どうしたらいいかと声をかけていると、別の男の人が入り口にいた。


 ひょろりと背が高く、微笑みをうかべている。前髪が長くて目が見えない。


「え?」

「よかった、火が消えましたね。いやあお嬢さんこの人は大事な約束を破った人ですから、こうなっても仕方がないんですよ」

 そう言うと、ひょろりとした人は軽々と男の人を抱えた。


「あ、えいむさん!」

 スライムさんも一緒にいた。


「スライムさん」

「じゃ、ぼくはこれで」

 と言うと、ひょろりとした人は出ていった。足音が聞こえない。


 お店の外に出て彼の背中を見送った。一度振り返って頭を下げられたので、私もうなずくように頭を下げた。


「さっきの人は?」

「ひとじゃないです、ちりがみです!」

「ちりがみ?」

 人に見えるけど。


「しりがみさんが、あぶないひとがうろついてるというので、おみせにつれてきました! えいむさんに、なにかあると、いけませんので!」

 むん! とスライムさんがふくらんだ。

「尻神?」

 お尻の神様になってしまった。


「でも、来ちゃってたけど」

「おしかったです!」

「それで、あのろうそくはなんなの?」

「わかりません! しりがみさんについては、よくしらないので!」

「ふうん」

 私は床に落ちている、火が消えた小さなろうそくと、まだ出したばかりのろうそくを見た。


「まだ使えるかなあ」

 私は長いろうそくを手に取った。


「おやすく、おゆずりしますか?」

「お安く?」

「わけありひんということで」

「そう? じゃあ、買って帰ろうかな」

 私は半額でろうそくを買って帰った。

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