303 スライムさんと透明人間
「えいむさん、いらっしゃい!」
スライムさんが、カウンターの上に現れた。
どうする?
「こんにちは」
あいさつをする。
「今日も透きとおってるね!」
「はい! とうめいにんげんです!」
「透明人間……?」
私は、首をかしげた。
「はい! おきゃくさんが、いってたんです! もし、とうめいにんげんになれたら、なにをしたいかって!」
スライムさんは、うねった。
「そんなの、おとこだったらきまってるよ、っていってたんですけど、なんだとおもいますか?」
「男だったら決まってる……?」
「おんなの、えいむさんは、どうですか?」
「その前に、透明人間ってなに?」
私は言った。
「とうめいな、にんげんだとおもいます!」
スライムさんが、むん、とふくらんだ。
「透明って……。死んじゃったってこと?」
「とうめいなだけ、だとおもいますけど」
「透明なのに生きてる……? だって、生きてるなら、透明じゃないんじゃない?」
「どうしてですか?」
「ほら。水って、止まってると透き通ってるけど、動くと、ちょっと透明じゃなくなるでしょ?」
流れている川より、バケツの水のほうがそこが見やすい。
「人間である以上、動かないわけにはいかないのでは」
私は手首をさわった。
とくん、とくん、と血液の流れを感じる。
「たしかに」
スライムさんは、ぷにん、と水が一滴落ちるようにつぶれてから、元にもどった。
「げんみつな、えいむさん。げんいむですね」
「言いにくいね」
「はい!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「でも、そのひとは、こたえはきまってる、っていってました」
「決まってる……」
「おとこだったら、きまってるそうです!」
「男だったら……」
私は考えた。
「男の人って、力を使う仕事、を受け持つのが多いよね」
「そうですね」
「姿が見えないわけじゃないけど、見えづらい……。においはどうなんだろう」
「においですか?」
「動物の狩りとか、においが残ってるなら、姿を隠せてもだめかな。あと、武器とかも必要かもしれない。そうなると、見えちゃうよね」
「そうですね」
「透明っぽいと、意外と違和感で目立つかもしれない。それに、服を着ることもできないから、活動できる時間、季節にも影響が大きい。食事もできないかもしれない」
こう考えると、透明になっても意外と制限が多い。
透明になる、透明でなくなる、ということが自由に決められるとしても、そんなに使い道が決まるものなんだろうか。
「男だったら、って言ってたんだよね?」
「はい!」
「ちなみに、スライムさんだったらどう使うの?」
「ぼくは、つかいませんけど」
「そう?」
「もともと、かなり、とうめいなので!」
スライムさんは、にやりとした。
「きれいな透明だよね」
「はい! えいむさんはどうですか?」
「私? 私は……」
ちょっと考える。
「なんだろう。ここに来るかなあ」
「ここに?」
「スライムさんが、ふだん、まじめに仕事をしてるか、見に来るとか」
「ぼくのしごとを!?」
スライムさんが、ぷるん、とゆれた。
「かくにん、されてしまう……」
「確認されたらまずいことでも?」
「いいえ!」
スライムさんがぶるるる、とゆれた。
「でも透明でも、服を着てたら見つかっちゃうか……。あ、見つかってもいいってことかな」
「いい!? せっかくとうめいなのに!?」
「透明になってたら……」
私は考える。
「男の人は、人間関係に使う?」
「と、いいますと?」
「ほら。疲れた顔をしてても、イライラしてても、面倒くさくても、顔が透明だったら、誰にもわからないかも」
上司とか、そういう人に嫌な気持ちになることもあるだろう。
「でも、それなら女の人も同じかもね。仕事のときは、透明になりたいのかもしれない」
「おんなのひとは、よくわらってますからね!」
「……女の人も、雰囲気のために、無理に笑っているのかもしれない」
「!? えいむさん?!」
「まあ、人間関係だよねー」
「えいむさん!? もっとくわしく!?」
「仕事とかじゃなくて、つかれてる人は透明になりたいのかもねー」
「えいむさん!?」
私は、まとわりついてくるスライムさんのぷにぷにを感じながら、うんうんとうなずいた。




