300 スライムさんとスパスパ
「えいさ、えいさ、えいさ!」
よろず屋の前でスライムさんが何度も行ったり来たりしていたので、私はしばらく見ていた。
でも私に気づかない。集中しているようだ。
「こんにちは。なにしてるの?」
「あ、えいむさん!」
スライムさんは止まった。
さわやかな笑顔だ。
「ぼくは、からだをきたえて、すぱすぱになるところです!」
「スパスパ?」
「スパスパは、きょうじんで、ゆうかんな、おとこたちです!」
「へえ」
強人?
「なんと、たった300にんのへいしで、10まんのてきと、ごかくにたたかった、といわれています!」
「300で10万!?」
「これがあの、いわゆるすぱすぱの、ごげんとなったともいわれています……!」
「いわゆるスパスパ」
なんだろう。スパスパ。
切れるのかな。
「あの、スライムさん? 私が不勉強だからだと思うんだけど、スパスパってなに?」
スライムさんが無表情になった。
「……すぱすぱを、ごぞんじない」
「うん。ごめんね?」
私が言うと、スライムさんは左右にふるえた。
「えいむさん。しらないことは、あやまることでも、なんでもないですよ」
スライムさんは、おだやかな顔をした。
「でも、しらないままでいることは、よくないかもしれませんね」
「そっか。なるほど」
「すぱすぱとは」
スライムさんが、むん! とすこしふくらんだ。
「ちいさいころから、みんなであつまって、みんなできたえる! きびしく! そうすることで、つよい、しゅうだんが、できます! くにでも、かぞくでも、なんでもまもれます!」
「おお、すごい」
「それがすぱすぱという、ことばだけでも、ゆうめいになった、りゆうです!」
「スパスパ」
知らないけど。
「いつごろまで鍛えるの?」
「ずっときたえます! そういうひとたちです!」
「ずっと」
「だから、すごくつよい! すぱすぱをすれば、よろずやだけじゃなくて、まちも、まもれます!」
「もしかして、そのためにスパスパになりたいの?」
「はい!」
スライムさんが、むん! とさらにふくらんだ。
「スライムさんはえらいね」
私はスライムさんの頭をなでた。
ひんやり、しっとりしている。
「えらいですか!」
「うん」
「ふふふ!」
スライムさんが、むん! とさらにふくらんだ。
「もしかして、最近スパスパの話を聞いて、影響された?」
「はい! えいきょうされました!」
「そっか。がんばってね」
「はい!」
「あ、でもスパスパって、どうなったら、スパスパになったことになるのかな。自分で決めていいの?」
「そう、おおもいですか?」
「お思いです」
「ですが、そこには、めいかくなものが、あったのです……」
スライムさんについて、お店に入った。
すると入り口に丸いものが置いてあった。
円形で、中央がなだらかに盛り上がっていて。
「盾?」
「そうです! それをつかって、さろんぱすをすることで、すぱすぱになれるんです!」
「サロンパスで、スパスパ」
私は盾を持った。
「あれっ」
重いのかと思ったら、軽い。
木、いや、木の骨組みと、薄い木で作られている。
「しってしまいましたね……」
スライムさんが、私の脚にまとわりつくように言ったので、脚を通じて体に声がひびいた。
「ぼくには、ほんもののたては、もてないので、にせもののたてです……。にせすぱです」
「にせスパ」
今日は新しい用語が多いな。
「ほんとうは、このたてをつかって、さろんぱす、というじんけいをくんで、たたかいます……。そうすると、ぜんいんで、おおきなたてのような、かたちになれるのです……」
「へええ。すごいね」
私は、みんなで空に向けて盾を集めて、雨を防いでいる様子を想像した。
「雨が降っても、ぬれなくてすむね」
「……はい!」
「じゃあ、私もサロンパスの練習したほうがいいかなあ」
「えいむさんが!?」
「だって、ひとりじゃスパスパになれないんでしょ?」
「すぱすぱは、おとこだけです!」
「スライムさんって、男なの?」
「!!??」
スライムさんは、ぷるんとふるえた。
「いってはいけないことを……」
「いけないの?」
「じつは、いいです!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「じつは、たては、まだあります!」
「じゃあ、やろうか」
私はスライムさんの上に盾をのせて、私も盾を持って外に出た。
私は、思いっきりしゃがんで、スライムさんの盾とくっつけるように構えた。
「こう?」
「はい!」
スライムさんが進む。
「待って、ゆっくり!」
腰が!
「これでえいむさんも、すぱるたです!」
「え? なんて?」
「えっと、すぱ……。すぱすぱです!」
なにかを思い出そうとしているスライムさんと、中腰で腰が痛くなりそうな私は、ずりずり、ずりずりと、サロンパスをした。




