297 スライムさんと擬態
お店の外で、青くて透き通ったものが動いている。
スライムさんだ。
草原を、きょろきょろしながら、たまに立ち止まって葉っぱを見ている。
「こんにちは」
私が声をかけると、スライムさんが、スライムさんひとりぶんくらい、ぴょんとはねた。
「わ、えいむさん!」
「びっくりさせちゃった?」
「しました! しんぞうが、とまりそうでしたよ!」
私はスライムさんの体を見た。
いつもどおり透き通っている。
「心臓?」
「すらいむじょーくです!」
「なにしてたの?」
「じつは」
スライムさんは、きょろきょろした。
「あやしいものが、うろついていたので」
「あやしい?」
「はっぱかな、とおもっていたら、はっぱじゃなかったんです! ゆるされますか、こんなこと!?」
スライムさんは熱弁した。
「つまり、葉っぱそっくりの虫?」
「はい!」
スライムさんによると、どうみても葉っぱだったのに、急に動き出した虫がいたのだという。
「そいつをみつけて、うったえます!」
「訴える?」
「すがたを、いつわった、つみです!」
「スライムさん。そういうのって、擬態っていうんだって」
「ぎたい……?」
スライムさんは、体をかたむけた。
「うん。虫が、他の……、鳥とかにおそわれないように、別のものみたいな格好をして、ごまかすんだって」
「そんなことが、おこなわれて……?」
「だから、訴えなくていいと思うよ」
「それは、すごいですね!」
スライムさんは、目を輝かせた。
「そうだね」
「ぼくもやりたいです、ぎたい!」
「スライムさんが?」
「はい! できませんか?」
「うーん」
私はスライムさんを見た。
「できそう」
「!!」
「どうですか!」
スライムさんの声がバケツにひびいた。
「うん。水っぽいけど」
スライムさんはバケツの中に入って、水の擬態をしていた。
水を擬態していた? 水擬態だった?
どういう言い方が正しいんだろう。
「そうですか!」
「でも、目と口がはっきり見えてる」
私たちは目を見て会話をしていた。
「じゃあ、だめですか……?」
「だめともいえるし、だめじゃないともいえる」
「そんななぐさめ……」
「横向きになってみたら?」
「!?」
スライムさんは、ぷにぷに、ぷにぷに、とゆっくり体の向きを変えていた。
「どうですか!」
スライムさんの声がこもって聞こえる。
「ちょっと、日陰に持っていくよ」
私はバケツを、お店の屋根の下に運んだ。
「あ、うん。水っぽい」
すこし暗くなって見づらくなり、バケツをくっついてる顔が見えにくい。
「やりました!」
「じゃあ、出ようか」
「でません!」
「えっ?」
「ぼくは、ぎたいでくらしていきます!」
「いやあ、それはちょっと……」
「えいむさん! いままで、ふつうで、ありがとうございました! これからの、ぎたいのぼくの、きたいしてください!」
「えっと……」
私は、無理に引っぱりだすのはやめよう、とうなずいた。
考える。
「……でも、スライムさんが、そんなに擬態がうまくなくてもいいかなあ……」
「なにか?」
「擬態って、他のものに見せかけるんだよなあ……。それって、なんだか、うそをついてるみたいだなあ……?」
「!?」
「私、どっちかといえば、うそをついてないスライムさんがいいかなあ……」
「……」
「あ。そうだ、ちょっと、薬草とって、お店に置いておくね。ひとつだけ」
私はお店の裏庭に向かった。
薬草が生えている区画のうち、ひとつだけひっこぬいて、お店にもどった。
「いらっしゃい!」
スライムさんがカウンターの上に乗っていた。
「あれ、スライムさん。どうしたの?」
「どうもしてませんよ! さいしょからさいごまで、ずっとこうしていた、いつものぼくです!」
スライムさんは、きりっ、とした。
「あ。これ、勝手にひとつ持ってきちゃった」
私は薬草をカウンターの上に置いた。
「おつかれさまです! さあ、たべますか!」
「うん」
私は薬草を半分ちぎって、スライムさんの口に入れた。
「うん、おいしいです!」
「よかった」




