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295 スライムさんと始球式

「ん?」


 よろず屋への道に、なにか転がっていた。

 球だ。

 白い、軽い素材の球だった。中はからっぽなのか、吹いても転がるくらい軽い。

 人さし指と親指で輪をつくったくらいの大きさだった。


 たぶんスライムさんだろう。

 拾って、よろず屋に向かう。

 すると他にも、草の間に転がっているのが見つかった。

 3つ、4つと拾いながらよろず屋に入ろうとすると、中から球が転がってきた。


「あ、えいむさん!」

 追いかけてスライムさんが出てきた。


「こんにちは。これ、どうしたの?」

「それは、しきゅうしきです!」

「しきゅうしき」



「つまり、なにかを始めるときに、球を投げる」

「それがしきゅうしきです!」

 スライムさんは、ふふ、と笑った。


「ものごとを、はじめるときに、しきゅうしき、がひつようなんです」

「あらゆること?」

「はい。ぼくは、これまで、しきゅうしきをせずに、いきてきました……」

「私も」

「これからは、しきゅうしきです!」

 スライムさんが、ギン! と私を見た。


「わかった!」

 私も、ギン! と見た。


「きょうは、おみせをあけるときや、やくそうをとりにいくまえにも、なげましたよ!」

「他にも転がってたよ」

 私は球をカウンターにならべた。


「あ! しきゅうしきの、たまが……」

「拾ったらいけないやつだった?」

「ひろうのを、わすれてました! かんしゃします!」

 スライムさんは、かんしゃします、ともう一回言った。


「ほうちしていたら、せかいが、しきゅうしきで、うまってしまいますからね!」

「大変だ。まだある? 全部拾ってきたほうがいいかな」

「はい! じゃあ」

 スライムさんは、近くにあった球をくわえると、息の力でぽん! と吐き出した。

 球は、こーん、こん、と床ではずんで、外に転がっていった。


「始球式?」

「はい! ひろうための!」

「じゃあ」

 私は、いま転がっていった球を拾った。


「おや? ひろいましたね?」

「うん」

「じゃあ、それを」

 スライムさんが口を開けたので、私はそこに入れた。

 スライムさんは、くわえると、ぽん、と出した。

 草原に落ちる。


「スライムさん?」

「しきゅうしきです!」

「!? もしかして……。ひとつ拾ったら、また始球式をやり直さなければならない……!?」

「!?」

 私たちは顔を見合わせた。


「始球式の球を拾うための始球式の球を拾うための始球式の球を拾うための始球式……」

「あー、あたまがおかしくなりそうです!」

 スライムさんは、ころころ転がった。


「ぼくのあたまが、どこからどこまでなのか、わからなくてあたまがおかしくなりそうで、さらにそのせいであたまがおかしくなりそうで……!」

 スライムさんがころころ転がる。


「待ってー」

 私は転がすスライムさんを追いかけた。


 スライムさんは転がる。

 私は追いかける。


 まてよ?


「……」

 私はスライムさんをつかまえて。


 軽く投げた。


「わっ!」

 スライムさんは草原を転がる。


「いけいけー」

 私はスライムさんに転がる力を与えるように、上のほうをこするように押す。

 スライムさんは転がる。


「なにしてるんですかー!」

「スライムさんが、始球式になればいいんだよ!」

「ぼくが、しきゅう、しき……!?」

 私は球を拾った。


「スライムさんが始球式になってるスキに、私が球を集めるから」

「!? それは……。……めいあんです!!」


 私はスライムさんを転がしながら、球を拾い集めた。


「これで全部かなあ」

「もっとあっちもいってください!」

「よく見えるね」

「はい!」

 私はスライムさんを転がしながら、草原を巡回した。

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