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290 死後のエイム

「……ここは?」

 目をあけると、広い場所に座っていた。


 空は赤い色をしていて夕方のようだけれど、もっと赤い色をしている。

 地面は乾燥している赤い土で、さわると表面が細かい砂のようにくずれる。

 近くに人がいた。


 立ち上がると、私はずっと長い行列にならんでいたことがわかった。ふりかえっても、横に顔を出して先の方をのぞき見ても、ずっと長い。

 その列は大きな建物に吸い込まれていくようだ。

 黒い屋根の、巨大な建物。


 まわりにはなにもなく、ただ、赤い荒野が広がっていた。

 どうしてここにいるのか思い出せない。

 列にならんでいる人たちはぼうっとしていた。

 見ているような、見ていないような目をして、ただ目を開いているといった様子だ。

 たまに、数歩進んだ。

 私もそうした。


 そのすこしの前進をくりかえし、私は大きな建物にやってきた。

 大きな扉は閉じていて、横の、人がひとり入れるくらいの扉がたまに開くと、人が入っていった。

 ふしぎなことに、出てくる人はいなかった。


 また扉が開いた。

 前には誰もいない。私は扉に入った。


 中は広い空間で、私は思わず立ち止まった。

 てっきり何階にも分かれていると思った建物は、外から見た最上階の高さまでずっと天井がなく、吹き抜けだった。

 空間もそうだ。壁はなく、ただ広い。

 その中央に大きな机があった。そこに誰かいる。


「きたまえ」

 スライムさんは言った。

 黒い帽子をかぶって、大きな姿だった。


 私は机まで歩いていった。


「なまえは」

「エイムです」

「きみはしんだ」

「死んだ?」

「じこだった。やくそうだとしんじて、どくそうをたべたのだ」

 スライムさんは言った。


「それは残念です」

「きみはこれから、てんごくか、じごくにいってもらう」

 建物の奥には、のぼり階段とくだり階段があった。のぼるほうはきらきら光っていて、くだるほうは、うっすらと黒い煙に包まれている。


「天国がいいです」

「えらべる、しすてむではない」

「すみません」

「きみはじごくだ」

「ええっ。どうしてですか」

「そういうせつめいは、しない」

「特別に、詳しいお話が聞きたいです」

「いいだろう。きみは、ほかのものとちがって、めがかがやいている。じごくの、くうきを、いいかんじにしてくれるだろう」

「天国じゃだめなんですか?」

「てんごくは、みんなふわふわしたものをたべて、ふわふわしたくもにのって、ふわふわしているだけだ」

「たいくつそうですね」

 私が言うと、スライムさんは、うむ、と言った。


「そういうはんのうができるじんざいは、きちょうだ。ぜひ、じごくのふんいきを、よくしてもらいたい」

「そんなに雰囲気が悪いんですか?」

「めが、しんでいるからな」

 みんな死んでいるらしいから、しょうがないだろう。


「じゃあ、天国と、地獄を、いったりきたりできるようにしてもらいたいです」

「うん?」

「地獄につかれたら、天国で休みたいです」

「なかなか、よくばりだな」

「はい!」

「いいだろう。どちらも、いけるようにしてやろう」

「ありがとうございます!」

 私がのぼり階段に向かうと、スライムさんが、ちょっと、と言った。


「まずはじごくだ」

「バレましたか」

「ゆだんならない」

「じゃあ、地獄から」

 私があらためて、くだり階段に向かったときだった。


 目の端になにか見えた。

 するすると降りてきたのは、ツタ、だろうか。

 葉っぱが一定の間隔で生えたツルがたれさがっていた。

 見上げると、ずっと、ずっと高いところからツルはさがってきているようだ。


 私はツルをつかんだ。

「わっ」

 すると、ツルが私にからみついた。

 そのまま上がっていく。

 スライムさんを呼ぼうとしたけれど、口もふさがり、視界もかなりふさがれて、すきまからちょっと見えるだけになっていた。

 するすると、力強く、ツルは私を持ち上げていった。



 目を開けると私は木陰にいた。

 草原の上だ。

 体を起こすと、すうっ、と風が顔をなでていった。

 夢を見ていた気がする。

「おめざめですか?」

 すぐ近くから声がして、びっくりしてしまった。

 腰をひねるとスライムさんだ。


「うん、気持ちよかった」

 私は、スライムさんを枕にして昼寝をしてみたい、と言ったことを思い出した。

「よかったです!」

「夢を見たんだけど」

「はい」

「忘れちゃった」

「そんなもんですよ」

「うん」


 私は立ち上がろうとして、指になにか引っかかっているのに気づいた。

 ツルだ。

 木に巻きついているツルのうちの一本が、地面をはって、私の指にたどりついていた。

 私はツルを外した。


「ところで、さっきのやくそうのおあじは、どうでしたか?」

「薬草?」

「かわったやくそうです!」

「そういえば、なにかもらったような」

 どんな味だったっけ。


「わすれちゃいましたか?」

「ごめんね」

「つぎに、いつ、てにはいるかわからないので、むしろ、おいしかったらたいへんでしたよ!」

「むしろよかったね」

「はい!」

「……それも、やくそうですね!」

 スライムさんは、ツルを見て言った。


「これも?」

「はい! なくしたとおもったら、はえてました!」

「勝手に育ったのか……」

「はい」


 私は木陰を出た。

 日差しが強く、私は目を細めた。


「天国でも地獄でもないね」

「なんのはなしですか?」

「わかんない」

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