280 スライムさんと右棒
「えいむさん。みぎって、どっちですか」
スライムさんが言ったけど、私はスライムさんをつかまえた。
「私の勝ち!」
「まけました……」
私たちは、スライムさんがよろず屋にたどりつく前につかまえられるかどうか、という遊びをしていた。
「あやうく、右について考えそうだったよ」
「おしかったですね!」
「右は、こっちだよ」
私は右手をあげた。
「それはしってます!」
「だよね」
「でも、もし、てもあしもないひとが、みぎをわすれたとき、どうしますか?」
「スライムさんのこと?」
「きづいちゃいましたか?」
スライムさんは、いやー、と笑った。
「きづいちゃいますよね?」
「そうね」
「ぼくが、つい、うっかり、みぎをわすれたらどうしようか。しんぱいで、よるもねむれませんよね?」
スライムさんは、期待の目で私を見た。
「そうね」
「ですよね!」
「右か……」
「そんなとき、みぎぼうをどうぞ!」
スライムさんが言った。
「解決策が、ある……?」
「はい!」
「どんな?」
私が言うと、スライムさんがよろず屋にもどって、棒をくわえて引きずりながらもどってきた。
途中から私が棒を持って、最初の場所にもどった。
「これが、右棒?」
「そうです! たおしてみてください!」
私が棒を立てて、倒す。
右に倒れた。
「みぎぼうです!」
「かならず右なの?」
「はい!」
「じゃあ……」
私は、ちょっと左に傾けて、手をはなしてみた。
すると、左に倒れるかと思った棒が、ぐりん、とまわって右に倒れた。
「おっ。右」
「でしょう?」
「じゃあ」
私は、あきらかに左側に傾けた。傾いたというより、地面から浮かせているというほうが、正しいかもしれない。
手をはなすと。
「えっ」
倒れたと思ったら、左側につくまえに右側が浮いて、右に倒れる寸前の形になった。
それから右に倒れた。
「みぎぼうです!」
「なかなかやるね」
「はい!」
「じゃあ……。スライムさんもいっしょにやったら?」
「どういうことですか?」
私たちは、棒をはさんで、向かい合った。
「スライムさんも」
私と一緒にスライムさんも、体を棒にそえた。
「これで、一緒に手をはなしたら、どっちに倒れるかな」
「えいむさん!」
「なに?」
「おもしろそうじゃないですか!」
「ね。じゃあ、いくよ」
「はい!」
「せーの」
私とスライムさんは、ぱっ、と棒からはなれた。
すると。
「おっ」
棒が止まった。
どちらにも倒れず、立ったままだ。
棒は、地面に刺さっているわけでもなく、また、そのまま安定して立っているほどの安定感はないのに。
「すごいね」
私が言ったとき、棒が左に倒れた。
「あ」
「えいむさん。ぼくの、かちです!」
「勝ち……?」
「えいむさんは、いま、みぎのことをわすれましたね?」
「たしかに」
「ぼくは、かんがえてました!」
「そういうことか……」
私とスライムさんは、もう一回棒を立てた。
「もう一回いい?」
「はい!」
「じゃあ、いくよっ」
手をはなす。
思ったとおり、スライムさんはしっかりと、棒を見て集中していた。
「……薬草って、右側がおいしいよね」
「えっ」
棒が右側に倒れた。
「やった」
「えいむさん! やりましたね?」
「油断したね」
「もういっかいです! もういっかい!」
「いいよ」
私たちの右棒の戦いのひぶたがいま、切られた!




