277 スライムさんとありがたみ
「えいむさん、ぼくは、よろずや、やめます」
スライムさんは薬草を食べながら言ったので、ふがふが聞こえたけど、たぶんそう言っていたと思う。
「休むの?」
「いいえ。ぼくは、よろずやを、やめようとおもいます!」
カウンターの上で、スライムさんはそう言った。
「ど、どうして!?」
思わず私がスライムさんをつかんでゆらすと、スライムさんがあわわわわわになった。
「あわわわわえいむさん」
「あ、ごめん」
私は手を離した。
「それで、どうして?」
「えいむさんが、ぼくのことを、ありがたがってないからです!」
スライムさんは、びしっ、と言った。
「びしっ」
もう一回言った。
うん?
「ありがたがってない?」
「そうですよ! こんな、すごいすらいむと、まいにちあえるなんて、すごいことですよ!?」
スライムさんが言った。
「そうだけど」
「その、ありがたみをかんじさせるために、ぼくは、しばらくおみせをやすみます!」
「私は、すごいと思ってるよ」
「ほんとうですかあ?」
スライムさんが、うたがいの目で見てくる。
これはめんどくさイム。
「スライムさん、どうしてそんなこと考えたの?」
「じつは……。しゅふが、まいにち、かじをしているのがあたりまえではない、というはなしをされまして」
「そういうお客さんが来たの?」
「はい。まいにち、ごはんがでてくるのは、あたりまえじゃないんだぞ!」
だいぶ、とある主婦に影響されている。
「それで、なんだかんだあって、ぼくも、あたりまえじゃないからな! というきもちに、なってきました」
「そう」
私は考えた。
「……じゃあ、帰ろうかなあ」
「あれ、どうしたんですか? まだ、やくそうを、かってませんよ?」
「スライムさんは、どうせ、私が薬草を買うと思ってるんでしょう? だったら、そのありがたみを感じさせようかなあと思って」
「えいむさん!」
スライムさんは、ぴょん、とカウンターからおりた。
ちょっと私を見て、カウンターにとびのった。
「えいむさん! ひくかったので、のりなおしました」
「そっか」
「では、ほんだいです!」
「はい」
スライムさんは、かっ、と目を見開いた。
「ありがたみをかんじさせたい。そういうかんがえかたは、あまり、かんしんしませんね!」
「? スライムさん……? 記憶が、ない……?」
「ありがたいというのは、じぶんから、おしつけるものではありませんよ……」
スライムさんは、おだやかに言った。
「わかりますか、えいむさん……」
「わかったけど」
「それで、はなしをもどしますが。こほん」
スライムさんは、ぷるん、と体をゆらした。
「ぼくの、ありがたみを、しらしめたいです!」
「だめだ……。ありがたみにとりつかれている……。しかも記憶もない……」
「えいむさん。どうしたらいいとおもいますか!」
「ええとね……」
私は考えた。
そしてスライムさんを持ち上げて、抱えた。
「えいむさん?」
私はお店の外に出た。
スライムさんを置いて、お店にもどる。
カウンターの中に入った。
「えいむさん?」
スライムさんが、とことこもどってきた。
「いらっしゃい!」
「!?」
「ここはよろず屋だよ」
「!? えいむさん!?」
「どうしたんだい、お客さん」
スライムさんはぼうぜんとしていた。
「スライムさん。残念ながら、私はおかしくなってしまいました」
「ああ……! えいむさんが、おかしくなった……」
スライムさんがおかしくなってしまったというのなら。
私がおかしくなってしまえば……!?
どうなる……!?
「ですから、私は、よろず屋を乗っ取りました」
「のっとったらだめですよ!」
「もう、このお店はやらないんでしょ?」
「やります! ただおやすみするだけです!」
「私はそんなこと関係ないもん」
「えいむさん!?」
「ここは、私のお店だもーん」
「えいむさん! しっかりしてください!」
スライムさんは、カウンターに飛び乗って、そのまま私に体当たりしてきた。
「わっ」
私はスライムさんを抱えたまま尻もちをついた。
「えいむさん! どうですか!」
「……スライムさん? 私は、いったい……」
「しょうきに、もどりましたか!?」
「私、おかしくなってた?」
「はい! そうとうでした!」
「そっか。なにか、ショックなことがあったのかな」
「! えいむさん!」
「なに?」
「ぼくは、おやすみするのを、やめます!」
「そうなの? そんなはなしあった?」
「えいむさん……! きおくが……! だいじょうぶです、おやすみしません!」
「よかった」
「でも、ぼくがおみせをひらいているのはあたりまえじゃない! それがうれしいなら、うれしいと、いってくださいね!」
「わかった。うれしい」
「はい!」




