274 スライムさんと同じことを言う仕事
よろず屋に歩いてくと、表にスライムさんがいた。
「いらっしゃい! ここは、よろずやだよ!」
「こんにちは」
「いらっしゃい! ここは、よろずやだよ!」
スライムさんは、同じことを言った。
「どうしたの?」
「あ、ちょっと、それだけをいうひと、をやってました!」
「それは、なに?」
「ふくぎょうとして、かんがえています!」
「副業?」
「そうだ、えいむさんも、やってみますか?」
私たちはお店の中に入った。
スライムさんはカウンターの上。私はカウンターの前で、中を見ている。
「いらっしゃい! ここは、よろずやだよ!」
「うーん、今日はなにを買おうかしら」
「いらっしゃい! ここは、よろずやだよ!」
「うーん、今日はなにを買おうかしら」
「いらっしゃい! ここは、よろずやだよ!」
「うーん、今日は、なにを買おうかしら」
「あ! だめですよ、えいむさん!」
スライムさんが鋭く言った。
「かんぜんに、おなじことを、いわなければなりません!」
「でも、同じじゃない?」
「ちょっとちがいました!」
「そう? こほん。うーん、今日はなにを買おうかしら」
「いいですね! おきゃくさんの、かんじが、よくでてます!」
スライムさんは、うれしそうに、左右に動いた。
「いらっしゃい! ここは、よろずやだよ!」
「うーん、今日はなにを買おうかしら」
「いらっしゃい! ここは、よろずやだよ!」
「うーん、今日はなにを買おうかしら」
「いらっしゃい! ここは、よろずやだよ!」
「うーん、今日は、なにを買おうかしら」
「えいむさん!」
スライムさんは鋭く言った。
「ちがいますよ!」
「あれ、私、またやっちゃいました?」
「やっちゃってます!」
「うーん。どこが変かなあ」
私は、せきばらいをした。
「うーん、今日は、なにを買おうかしら」
「それはいいです!」
「うーん、今日はなにを買おうかしら」
「いいですね! ばっちりです!」
「うーん、今日は、なにを買おうかしら」
「それです!」
スライムさんは、鋭さを増している。
「どうも、なんかいも、いっていると、ひとやすみするようですね!」
「そっか……。でも、どうして完全に一緒じゃないといけないの?」
「きいているひとが、わからなくなっちゃうからです!」
「なる?」
「え?」
「なるかな?」
私は考えてみる。
「ちょっと休みながら言っても、そんなに変わらないんじゃないかな」
「……えいむさん」
スライムさんは、おごそかに言った。
「ちょっとのゆだんが、おおきなゆだん!」
ドドン!
「……はっ!」
私は気づいた。
「そうだよね! ちょっと、たくさん食べたりしてもあんまり変わらないと思って油断してると、気づいたときに、とんでもない体重になるんだよね!」
「? そうです?」
「でも、思ったより大変な仕事だね。スライムさんは、ちゃんとできて、すごいね」
私が言うと、スライムさんは喜ぶかと思ったら、ちょっとつぶれた。
「どうしたの?」
「じつは……。ぼくは、ずるをしたんです。ずるいむです」
「ズルイム」
「ぼくも、ほんとうは、ちゃんとできなかったんです! あたらしいことが、おぼえられません!」
「できてるでしょ?」
「よろずやでいいそうなことをいって、ごまかしてるだけなんです!」
「……正直に、言えたね」
「!?」
「いいんだよ、スライムさん。これから、言えるようになっていけば」
「! ほんとうですか!?」
「うん。じゃあ、ちがうことも、いってみようか」
「はい!」
「こんにちは! ここは、すらいむのまちだよ!」
「薬草もおいしいよ」
「こんにちは! ここは、すらいむのまちだよ!」
「薬草もおいしいよ」
「こんにちは! ここは、すらいむのまちだよ!」
「薬草もおいしいよ」
「いいですね! えいむさん!」
「スライムさんも、のってきたね!」
「こんにちは! ここは、すらいむのまちだよ!」
「薬草もおいしいよ」
「こんにちは! ここは、すらいむのまちだよ!」
「薬草もおいしいよ」
「こんにちは! ここは、すらいむのまちだよ!」
「薬草もおいしいよ」
私たちは、夕方まで練習した。
スライムさんが、町長をねらっていなくもないこともわかった。




