272 スラ祭り
「いらっしゃいませ!」
「こんにちは?」
お店に入ると、私があいさつをするより先にスライムさんに言われてしまった。
「早いね」
「はやいむです」
「ハヤイム」
「はい!」
「たぶんいいことだね?」
「はい!」
「……ところで、なにこれ」
カウンターの上には、青くて透き通った、ぷるぷるした球体があった。ぷるぷるしているので、自分の重さですこしつぶれている。
「なんだとおもいますか?」
「……、スライムさん?」
私は推理を披露した。
「そうです!」
スライムさんはぴょん、とカウンターに乗った。
「よくわかりましたね!」
「でも、スライムさんではないよね?」
「えいむさんがきてくれたので、ちょうどたすかります!」
「どういうことだろう?」
「それをもって、ついてきてください!」
「……いいでしょう」
私は、あえてなにもきかなかった。
一緒にお店を出た。
ぽかぽかとあたたかい空気で、風もなくおだやかだった。
最初は道を歩き、途中から草原に入っていった。細い川が見えてくる。
私がかんたんにとびこせるくらいの、小さな川だ。
スライムさんが、なにげなく川の前にすっすと向かったので、私は川とスライムさんの間に入った。
「おっと。あぶないよ」
スライムさんが川に入ったら、大きくなってしまって大変だ。
「へいきですよ!」
「油断できない動きをする」
「ふふ。しょせん、すらいむと、ひとは、わかりあえないものなのです……」
「そのわりには仲良く散歩したけどね」
「さんぽは、すべてをかいけつするのです……」
言われてみると、運動不足の人も、夫婦で会話がない人にも、散歩が効果的だという話を両親がしていた気がする。
「散歩は、すごいぽだね」
「すごいぽ! さすがえいむさん!」
「それで、ここでなにするの?」
「それを、すてます」
スライムさんは、私の持ってきたものを見た。
青くてぷるぷるしている。
「これ、スライムさんじゃなかったっけ?」
「だからこそです」
「さすがにくわしい話を聞かせてもらおう」
「それは、ぼくの、みがわりなのです」
スライムさんによると、スライムさんの身代わりを捨てることにより、スライムさんが安全に過ごせるようにする、というものらしい。
「代わりに、これが流れていくから、スライムさんは健康でいられる、と」
「そうです!」
私は考えた。
「だったら、お店に置いておいたほうがよくない?」
「どうしてですか?」
「身代わりがいなくなったら、スライムさんがまた、危険にさらされてしまうのでは」
「!」
「それより、身代わりを身近においておいたほうが、危険を引き受けてもらえるのでは」
「!!」
スライムさんは、ぽて、と顔を地面にくっつけるように倒れた。
「スライムさん?」
「たしかに。たしかに!」
スライムさんの声がスライムさんの体にひびいて、不思議な聞こえかたをした。
水の中で聞こえる音に似ていた。
「じゃあ、かえりましょうか」
スライムさんが起き上がった。
「いいの?」
「はい! これは、かざっておきます!」
「じゃあ、私の身代わりもついでにほしいなあ」
「いいですね! みがわりは、おおければおおいほど、にぎやかですからね!」
「そうだね」
「とりあえず、ぼくと、えいむさんのみがわりをならべて、そのしたに、3つくらいおきましょう! さらに、そのしたには、5つくらい、おいておきましょう!」
「いっぱいだね!」
「はい! おまつりです!」




