271 スライムさんと肥満
「やくそうって、たべてもふとらないのは、しってますか?」
スライムさん、カウンターの上でもぐもぐ薬草を食べながら言った。
「太らない?」
「はい。どれだけたべても、ふとらない。と、おきゃくさんが、いってました」
「うわさ、か……」
私は遠くを見て言った。
「ふとりたくないですか?」
「ふふ、そうだね」
「……ところで。どうなったら、ふとってますか?」
スライムさんが言った。
「え? それは、それは、体に、お肉があまってる感じですけどなにか?」
なにか?
「あまってる?」
「そう。見た目がよくない。あと、太ると、体によくないらしい」
「からだによくない! それはよくないですね! えいむさんは、ふとってないですよね?」
「そうだね」
そうだよ。
スライムさんは、自分の体を見た。
「ぼくはふとってますか?」
「スライムさん? 太ってないんじゃない?」
「でも、ぼくも、からだがおおきくなりますよ」
スライムさんの言葉に、私は、水分をたくさん吸収して大きくなった体を思い浮かべた。
「あれは、むだな、おおきさですよね?」
「うーん。たしかに、スライムさんの体が、いまの大きさがふつうなんだとすると、太ってるのかも」
「ふとりいむですか? からだにわるいですか!?」
「フトリーム? でも、すぐやせるからへいきじゃない?」
「えいむさんはちがうんですか?」
「人間は、もっと時間がかかるよ。太るのも、やせるのも」
「そうなんですか」
私は、母が自分の体型を気にする発言をしていた場面を思い出していた。
深刻そうではなく、ちょっとしたあきらめを感じさせるものだった。私の前だったからだろうか。
「スライムさんも、私も、食べすぎると太るのはいっしょだよね」
「いっしょですね!」
「ほうっておくと、余分なものがなくなっていくのもいっしょだよね」
「いっしょですね!」
「ということは……」
私は考えた。
「太るというのは、食べる量が、ずれてるだけかもしれないね」
「ずれ、ですか?」
「そう。自分にぴったりの状態から、ちょっと多いと、太る。すくないと、やせる」
「ほほう?」
「ぴったりの体型の人は、食べるのが上手で、太ったり、やせたりしてるのは、食べるのがへたなのかな」
「なるほど」
私たちは薬草をつまんだ。
「ふとってるひとは、ずっと、へたなんですか?」
スライムさんは言った。
「やくそうも、たべれば、いいとおもいますけど」
「……そこには、ある事情があるんだよ」
「えいむさんは、しってるんですか?」
私がうなずくと、スライムさんがすこし近くへ来て、声をひそめた。
「いったい、それは……?」
「おいしいものは、食べすぎてしまう」
「!」
スライムさんは、ぷるん、とゆれた。
「なぜなら、おいしいものは、たくさん食べたいから!」
「!!」
スライムさんはすこしはなれると、遠い目をした。
「にんげんとは、おろかな、いきものだ……」
「そうだね」
「しかし、すらいむもまた、おろかである……」
「そうかな」
「おなじおろかなら、きにならないのである……」
「そうかもね」
「たべるのを、じょうずになれたら、よいのである……」
「そうだね」
「やくそうを、かうのである……」
「商売上手だね」
スライムさんは、私を見た。
「たべるりょう、いがいには、ほうほうは、ないんですか?」
「あるよ」
「あるんですか!?」
「運動」
「じゃあ、いいじゃないですか。うんどうすれば!」
「しない」
「えっ?」
「しない」
「……」
「……」
「じゃあ、ちょっと、やくそうを、とってくるのを、てつだってもらってもいいですか?」
「いいよ!」
「……にんげんとは、むずかしい」
「なにか言った?」
「なんでもないです!」




