269 スライムさんと薬草レンタル
「きょう、ぼくは、あたらしいしごとを、はじめようとおもいます」
スライムさんはカウンターの上で言った。
「あ、ちょっと待って」
私は、ふわりとスライムさんの上に落ちてきたほこりに、ゆっくり手をのばす。
つまんで、指先で丸めてゴミ箱に落とした。
「くろうをかけますね、えいむさん」
「スライムさんには、いつもお世話になってるからね。それで? 新しい仕事って」
「やくそうの、かしだしです!」
「薬草の……?」
私はピンとこなかった。
薬草からは最も遠い商売のような気がする。
「貸し出すんだったら、物のほうがいいんじゃないの? ほら、防具とか」
「それはぼくもかんがえました。でも、いろいろなものを、かしだすと、かんりがたいへんです」
「そうだね」
「だから、どれか、ひとつにしたほうがいいんです!」
「なるほどね。それで、どうしてやくそうなの?」
道具をたくさん取り扱うのが大変だというのはわかる。
魔物と戦いなれていないけれど、一日だけ防具を身につけたりしたいときもあるだろう。
でもそれによって、傷がついたり、汚れたらどうしたらいいか。
本業とちがう仕事が増えてしまったら、という心配はあるだろうけど。
でも?
「ひとつにしぼるとしても、どうして薬草なの? 借りて、使わなくて返すって言われたら、しわしわになっちゃってるかもしれないよ?」
道具なら使わなかったらそのままもどってくる。
でも植物はそうもいかないだろう。
「えいむさん。それは、わかっています」
「では、なぜですか、スライムさん。お答えください」
「それは……。おきゃくさんは、やくそうを、かえそうとはしないからです!」
スライムさんは堂々と言った。
「それは、どういう……!?」
「じゃあえいむさん。やくそうを、かりたとします」
「はい。かりました」
「はい。そして、しわしわになっちゃったとします」
「はい。しわしわ……」
「えいむさんは、そのやくそう、どうしますか?」
スライムさんは私を見た。
「え? ええと……。がまんして使うか、捨てるか、かな」
「それは、なぜですか?」
スライムさんは、ずずい、と近づいた。
「え? わざわざ、薬草を返して新しいのをもらうのも悪いっていうか……」
「でしょう!?」
スライムさんが、ずずずずい、と近づいた。
「やくそうを、わざわざ、かえさない。めんどうだから!」
「つまり、実質、売っているのと同じ……?」
「はい!」
「しかも、借りるほうを試してみたいと思わせることができれば、お客さんが増えるのと同じだから」
「はい!」
「売上、アップだね!」
「そういうことです!」
スライムさんは、満足そうにカウンターの裏に行くと、もぐもぐ薬草を食べながらカウンターの上にもどってきた。
「そういうことです!」
スライムさんはもう一度言った。
「スライムさん……。いや、店長」
「! はい!」
「よくがんばったね!」
「はい!」
「私もうれしいよ」
「ぼくもうれしいです!」
「これで貸し出し作戦、大成功だね!」
「はい!」
貸すのなら、わざわざカウンターの中のならべかたも変わらない。
なんてかんたん。
「やったねスライムさん!」
「はい! かんたんです!」
「値段はどうするの?」
「いっしょです! かえしたひとには、おかねをかえします!」
「売るのといっしょなんだね?」
「はい! まったく!」
「かんたんだ!」
「はい!」
そして、売上も変わらなかった。




