264 スライムさんとお正月
それは、お店でスライムさんの手伝いをしていたときに起こった。
私が持っていたオレンジを落としてしまって、それがちょうどカウンターの前にいたスライムさんの頭のてっぺんにのっかった。
音もなく、すん……、とスライムさんの頭に着地したオレンジは、すこしだけ上下して、ぴたりと動かなくなった。
「あ、ごめんね」
「まってください!」
私は、オレンジを取ろうとした手を止めた。
「どうしたの?」
「なんだか……。しっくりきませんか?」
スライムさんは言った。
スライムさんの上に、オレンジがのっている。
「たしかに、なんとなく、しっくりくるかも」
「でしょう!」
「なんだろうね」
「わかりません! でも、このままいれば、なんだかおめでたいきがします!」
「たしかにね。なんでだろうね」
「わかりません!」
スライムさんは、いったんカウンターの上に移動して、私はオレンジをのせなおした。
「いいかんじです!」
「そうだね。もうちょっと、かざりとかあると、もっといいかも?」
「はい!」
「なにかある?」
「てきとうに、やってみてください!」
「てきとうと言われても……。じゃあ、この箱をあけまして……」
「あ!!」
スライムさんが急に言ったので、私はびくっとしてしまった。
「それ、いいです!」
「それって?」
「あけまして!」
「あけまして?」
「はい!」
「おめでたい?」
「あ! あ! さらにいいです!」
「あけまして、おめでたい?」
「ああああ!!!」
スライムさんはぷるぷるふるえると、上のオレンジもふるえた。
「いいです!!」
「そう? あっ」
私はまた落としてしまった。
「なんか、木の玉を落としちゃった」
「あああ!! いいです!!」
スライムさんがふるえる。
「木の玉を落とすのが?」
「はい!! おとしたたま!」
「じゃあ、もっと落とそうか?」
「おとそ!! あああ!!」
「角まで転がっちゃった」
「かどまで! かどまで? なんだかおしい!」
「そういえば、今日はよろず屋に来る夢を見てね」
「ああ!!!」
「山と、鳥が飛んでてね」
「ああ!!! おしい!」
「そうそう、スライムさんが、外でたきびに点火しようとか言ってて」
「てんかしよう! てんかしょう、てんかじょう! ねんがじょう!」
「このお盆になにかのせる?」
「それはちがいますね」
スライムさんが冷静に言った。
「そっか。あ、そうだ、おいしいスープを飲んできたんだよ」
「それもかんけい……、なにがはいってましたか? なにが!!??」
気づくと、私は、スライムさんをいかにふるわせることができるか。
それを考えながら話をしていた。
「あああ!!!」
「そうそう、それとたくさん掃除をして」
「それはちがいます」




