261 スライムさんと顎関節症
「こんにちは」
お店に入ると、スライムさんはカウンターの上で上を見ていた。
横になっている、のほうが正しいかもしれない。
「こんにちは……」
スライムさんは、ゆっくり起き上がってこっちを見た。
口の横に緑色のものがくっついている。
葉っぱかな?
地上に生えているのではなく、木の枝から生えているような葉っぱだ。
「どうかしたの?」
「びょうき、かも、しれません……」
「ええ!?」
「がくかんせつしょう、かもしれません……」
スライムさんは真剣な目で私を見た。
「がく? かんせつしょう?」
「がく、というのは、あごのことです!」
「あごの、関節?」
「そうです! さまざまなりゆうで、あごが、いたくなる、やまいです!」
私は、スライムさんの口元にささっている葉っぱを見た。
「それじゃないような気がするけど」
「えいむさん! しろうとはんだんは、きけんです! がくかんせつしょうの、げんいんは、たさいで、しろうとが、かんたんには、はんだん、できないのです!」
スライムさんは、勢いよく言った。
「そうなんだね」
「はい。もしかしたら、えいむさんも、すでに、がくかんせつしょうかもしれませんよ……?」
「えっ」
私はほっぺたをさわった。
なにもささっていない。
「だいじょうぶだと思うけど」
「そのかのうせいも、たかいです」
「よかった」
「でも、がくかんせつしょうは、かんたんには、なおらないという、もんだいがあります」
「そうなの?」
「ひとによっては、いろいろな、おいしゃさんに、みせてまわることに……」
「たいへんなんだね」
「はい!」
スライムさんが口を大きく開けて言うと、葉っぱがゆれた。
「うっ」
「どうしたの?」
「いま、ちょっと、いたみました……」
「そっか……」
「いつもどおり、しゃべると、いたみがでることも……。くちを、あけにくくなるのも、がくかんせつしょうの、とくちょうです……」
スライムさんは、口をあんまり開けずに言う。
「痛いの……?」
「つねに、ではないですけども。たまに」
「なるほど……」
「これから、ぼくは、げんきに、やくそうをたべられなくなるかもしれません……」
「私が細切りしようか?」
「! えいむさん!」
スライムさんは私を見た。
「えいむさんには、めいわくかけますねえ……!」
「いつもお世話になってるからね」
「えいむさん……!」
「スライムさん」
私は、カウンターの上にいるスライムさんの前に行った。
そっと、スライムさんを包むように腕をまわす。
「えいむさん……!」
「よしよし」
私はスライムさんをなでながら、こっそりと葉っぱをつまんだ。
そして抜いて、ポケットに入れた。
「うっ」
スライムさんが表情を変える。
「いたみが……!? くちを、おおきくあけなかったのに、いたかった……。しんこう、している……!?」
「まだ痛い?」
「いまは、とくに」
「口を大きく開けたら?」
「えいむさんは、おにですか!?」
「ちょっとやってみて。おねがい」
「えいむさんのおねがいなら、きいてあげますけど……」
スライムさんは、しぶしぶ、あーん、と口を開けた。
「どう?」
「おや?」
スライムさんが、口をぱくぱくする。
「いたく、ない……?」
「やったね」
「そんな……!? しかし、きんじょのおいしゃさんではなく、ちゃんと、せんもんいに、みせれば、すぐなおるとも、いわれているが……? あるいは、しぜんに、しょうじょうが、おさまることも、あるとも……?」
「運がよかったね!」
「でも、また、しょうじょうが、でるかも……」
「スライムさん」
「なんですか?」
「そのときは、そのとき考えよう」
「……。……はい!!!」
スライムさんは、元気に言った。




