260 スライムさんと半分の奥義
「こんにちは」
「!?」
スライムさんが、カウンターの上で、びくりとした。
「い、いらっしゃいませ!」
スライムさんがうろたえている。
「どうかしたの?」
「い、いえ?」
スライムさんは、ちらりと、自分の横の皿にのっている薬草を見た。
「ふうん? 薬草でも食べる?」
「え、ええ!?」
スライムさんは、びくりとした。
やはりそちらに鍵があるようだ。
「どうしたの?」
「じつは……。ぼくも、やくそうを、たべようとしたんです」
「食べなよ?」
「でも、えいむさんをみてしまったいま、ぼくだけで、たべるのは、ちょっと……」
「もう薬草ないの?」
カウンターをのぞくと、ひとつもない。
「まさか、売り切れ?」
「うらにわに、いけば、あります……」
「行かないの?」
「……」
スライムさんは、だまって私を見た。
「なにがいいたいか、わかりますか……?」
「……」
スライムさんは、澄んだ目をしていた。
「……めんどうくさい?」
「!! さすがえいむさん!」
スライムさんは、目を大きく開いた。
「私とスライムさんの仲でしょ?」
「えいむさん!」
「というわけで、半分ずつ食べればいいんじゃない?」
「そうですね!」
私が半分にわけて、食べたようとしたときだった。
スライムさんは、じっとしている。
「あれ? どっちがいいか、なやんでる?」
半分にしたとはいえ、同じではない。
「そんなことは、もう、いいんです」
「いいの? スライムさんは、選ぶの、なやむ、なやイムさんじゃなかった?」
「それよりも、ぼくは、だいはっけんを、したかもしれません」
スライムさんは、ぷるん、とふるえた。
「どんな?」
「はんぶんの、おうぎです」
「半分の奥義?」
「そうです」
スライムさんは、重々しく言った。
「まず、半分にして食べます」
「うん」
「でも、まだ、うらにわにいくのは、めんどうですね?」
「うん」
「またたべたくなったら、はんぶんにします」
「なるほど?」
「たべたくなったら、はんぶんに。たべたくなったら、はんぶんに。ずっと、うわにわに、いかなくて、よいのでは?」
スライムさんは、きりっ、とした。
「たしかに? でも……」
私は、食べかけのほうの、残っている薬草を半分にした。
「小さくなったら、すぐ、お腹がへるんじゃない?」
「そうしたら、すぐ、はんぶんにすればいいです!」
「もっと小さいから、もっとほしくなるよ」
「またすぐ、はんぶんにします!」
「ほほう……」
私は、四回くらい、半分にしてみた。
「けっこう小さいよ?」
「えいむさん。はんぶんを、あまくみてはいけません!」
「スライムさん?」
「はんぶんは、やりますよ……」
スライムさんは、にやりとした。
なんともいえない迫力がある。
「たべたくなったら、はんぶんにする。さらにたべたくなったら、はんぶんに。はんぶんは、まけません……!」
「たしかに?」
なんだかおかしい気がするけど、でも、たしかに、半分にし続ければ、いつまでも食べ続けられる。
「すごいね、半分!」
「はい! ぼくは、こたえを、みつけました!」
スライムさんが、今日はいつもより大きく見える。
「でも、薬草ひとつ買いたいお客さんには、どうしようか」
「……」
「……」
スライムさんが、いつもどおりの大きさに見えた。




