257 スライムさんとよだれ
「えいむさん、よだれをくれませんか?」
お店で薬草を食べながら話していたら、スライムさんが急にそんなことを言ったので、私は止まってしまった。
「……よだれ?」
「はい!」
スライムさんは、口の端に薬草をたらしながら言った。
「まず、それを食べようか」
「はい!」
スライムさんは、もぐもぐ、するする、と口の中に薬草を入れて食べた。
「たべました!」
「よし。じゃあ、次はお茶でも」
「よだれをくれませんか?」
「……」
「……」
そうか。
「スライムさんが言ってるのは、私の思うよだれじゃないかもしれないよね」
「くちのなかにある、だらーっ、とでるやつです」
「私もそれだと思う」
私は椅子に座って、うつむいた。
「どうして、こんなことになったんだろう……」
「よだれが、きれいなのか、きたないのか、かんがえるためです」
私は顔を上げた。
「よだれが?」
「はい!」
スライムさんは、カウンターにのって、くるりとまわった。
「よだれって、きたない、とおもってませんか?」
「まあ、きれいではないかも」
「でも、くちのなかにあるんですよね? だったら、きれいなんじゃないんですか? ぼくは、そこが、きになりました!」
「たしかに」
言われてみれば、誰かによだれをつけられたら、きたない、と反射的に思ってしまいそうだ。
でもスライムさんの言うとおり、口の中にある。
ならきれいなのではないか。
「きれい、かもしれない」
「はい!」
「よだれって、なんであるんだろうね」
私は首を振った。
「よだれ。……そんなものがあるから、きたないとか、きれいとか、そういう話になる。よだれなんて、なかったら、こんなことには……」
私は頭を抱えた。
「えいむさん! えいむさんだけが、なやまなくていいんですよ!」
「スライムさん……。でも私は……」
「よだれがあるのは、えいむさんがわるいんじゃないです!」
「じゃあ、よだれが悪い……?」
「よだれもわるくないです! ただそこにあるだけで、わるいなんてこと、ないんですよ!」
「スライムさん……」
私は立ち上がった。
「そうだよね。よだれは、悪くないよね。かんたんに、いいとか、悪いとか、そういうことを言う私が悪いんだよね」
「えいむさんもわるくないです!」
「ありがとう!」
「はい!」
「それに、口の中をしめらせておくと、いろいろいいことがあるかもしれないしね!」
「はい! いろいろ、いいことが、あるかもしれないです!」
「うん!」
私は外に出た。
空を見る。
「スライムさん」
「なんですか?」
「明日を、見ていこうと思うよ」
「そのいきです!」
「うん!」
私たちは明日を見つめた。
「えいむさん、よだれをください」
「それはいや」
「どうしてですか!」
「なんとなくやだ!」




