256 スライムさんの日
「ようこそ、えいむさん! この、きねんすべきひに!」
お店に入ると、スライムさんがカウンターの上でこう言った。
「こ、こんにちは?」
「こんにちは! やくそうを、どうぞ!」
スライムさんは、薬草がのっているお皿をちょん、とさわった。
「どうしたの? なんの記念?」
「きょうは、すらいむのひ、です!」
「スライムの日?」
「そうです!」
「そんなのあったんだね」
「さっき、きめました!」
「うん?」
「さっき、きめました!」
どん!
スライムさんは宣言した。
「前からあったわけじゃないの?」
「はい!」
「で、決めた」
「はい!」
「そんなことしてもいいの?」
「いいんです! というより、いいんです!」
スライムさんは、きりっ、とした。
「きねんびというのは、だれもが、かってに、すきかって、やっていいことなんです!」
「そうなの?」
「ぼくも、それをしったときは、おどろきました……。ちゃんとしていそうなのに、すきかって、やっていたなんて……」
スライムさんは、遠くを見た。
「そんなことが」
「はい! だから、きょうは、すらいむのひ、です!」
「じゃあ、この店に来たお客さんの中で、スライムが来たら、割引とかするの?」
「! たしかに! では、すらいむのおきゃくさんには、9わりびきです!」
「引くね!」
「ひきます! ひくくらい、ひきます!」
「どういうこと!?」
「それに」
スライムさんは、ちょっと悪い笑い方をした。
「わりびきしたところで、すらいむは、きませんよ。くっくっく」
「そうか。ここは、人間向けのお店だもんね」
「くっくっく。わりびきしている、とみせかけて、それをかうひとはいない……。あくの、さくせんです……」
「スライムさんも、なかなか、商売上手になってきたね!」
「くっくっく」
「でも、バレると思うけどね」
「くっくっく!?」
「スライムさんが知っている以上に、お客さんが、人間向けのお店だって知ってるからね」
私が言うと、スライムさんは、カウンターからおりた。
怒らせてしまっただろうか。
「スライムさん?」
「くっくっく……。くっくっく。くっくっく! ……くっくっく! くく! くっくっく!!!」
「どういうこと!?」
「ぼく、がんばります!」
「!? そうなの!?」
なにかを決意したスライムさんは、くっくっく、と笑っていた。
スライムさんの気持ちがわかるかもしれないと、私も、となりで、くっくっく、と笑ってみた。
「くっくっく」
「くっくっく」
スライムさんも笑った。
「明日も、スライムの日?」
「くっくっく……。くくっ!」
スライムさんは言った。
どっちだろう。




