240 スライムさんとやくほうだい
「やくほうだい」
お店の前に出ていた板に、そう書いてあった。
どういうことかと入っていくと、スライムさんと、カウンターに山盛りになった薬草がある。
「いらっしゃいませ、えいむさん……」
スライムさんが、意味ありげに笑っている。
「こんにちは」
「やくほうだいへ、ようこそ……」
「やくほうだい」
薬草がたくさんある。
やくほうだい。
そこから導き出される結論は。
「薬草食べ放題?」
「すばらしい!」
スライムさんは、近くの薬草を食べた。
「もぐもぐ!」
「そういうのを、始めたの?」
「ただの、たべほうだいじゃ、ないですよ! 30にちかん、たべほうだいです!」
「30日間も?」
「はい! さきにおかねをはらえば、たべほうだいです!」
スライムさんは言った。
「じゃあ、最初にお金を払えば、30日間は、お金を払わなくていいんだね?」
「そうです!」
「なんでそんなことを?」
「わかりますか?」
「……」
「そっか。最初にお金を払っちゃったら、途中でやめたらもったいないし、毎日、元を取ろうと食べる。ということは、たくさん売上があるのと、似たようなことになる……?」
「すばらしい! そのとおりです!」
なるほど。
これはなかなか……。
「スライムさんにしては、商売が上手かもしれない」
「ぼくにしては、ってどういうことですか!」
「ごめんごめん」
「だから、どういうことですか!」
スライムさんがなぜか二度きいてきた。
「え? ……いつものスライムさんを考えてみたとき、今回は、商売をちゃんと考えてるなあ、っていいう……」
「なるほど! ありがとうございます!」
「どういたしまして」
意味がわからなかっただけらしい。
「まいにち、いっぱい、もってかえっていいですよ!」
「それはいいの?」
「どうしてですか?」
「薬草を持って帰っちゃったら、いくらでも持って帰れちゃうでしょ?」
「だめですが? こきゃくを、だいいちに、かんがえてますよ?」
「持てるだけ持って帰って、近所に配ったりしたら、他のお客さんが買ってくれなくなっちゃう」
それだけじゃない。
もし、よろず屋から持って帰った薬草を、別の場所で売り始めたら。
「スライムさんの薬草が、他のところでもうけを出しちゃうよ!」
「……それも、みんなのためなら、しょうがないですね……」
「商売はどうしたの!?」
「はっ」
スライムさんが、正気をとりもどした。
「商売っていうことを考えたら、やっぱり、ここで食べる。それだけしか、認めたらいけないじゃない?」
「そうですか?」
「そんなに、毎日毎日、薬草をたくさん食べたい人っていないでしょ? だから、途中であきるよね。あきたら、そのぶん、利益になるでしょ? だから、一見得なようだけど、実はお客さんにとってそれほど得ではない。そういう売り方をすることで、お店にとって利益を生み出す。そういう仕事のやり方が、私たちの商売において、必要な時期に来てるんじゃないかな? だましているわけじゃない。でも、お客さんは、それほど深く考えて行動しているわけじゃない。その部分を」
「えいむさん!」
スライムさんが、私にとびついてきた。
「わっ」
「どうしたんですか、えいむさん!」
「え? ……どうしたんだろう。ちょっと、どうかしていたかもしれない」
「そうですよね! やくそうをたべて、おちついてください!」
私は、スライムさんが押しつけてきた薬草を食べた。
「どうですか!」
「ちょっと、落ち着いた」
「はい! それとえいむさん!」
「なに?」
「やくそうを、まいにちたべるひとって、いないんですか!?」
「いないと思うけど」
「でも、えいむさんは、まいにちのように、たべてますよ!」
「えっ」
言われてみれば。
「じゃあ、商売として、成立は……?」
「だめですね!」
「え、どうして?」
「えいむさんしか、いませんでした!」
「でも、私以外にもいるかもよ?」
「いません! やめます!」
「やろうよ! 薬草放題! いるよ、薬草人間!」
「やめます! えいむさんとだけ、たべます!」
「やろうよ! やろうよ!」
スライムさんが、ぴゅっ、と逃げ出したので、私は走って追いかけた。




