239 スライムせきずい剣
「えいむさん、どうぞ!」
お店に入ったらすぐ、スライムさんがカウンターの上に薬草を出してくれた。
「ん? ありがとう」
「えいむさん、どうぞ!」
薬草を食べたらすぐ、スライムさんがお茶をくれた。
「あ、ありがとう」
「えいむさん、どうぞ!」
スライムさんが椅子を押してきてくれた。
「ありがとう?」
「えいむさん、なにか、してほしいことはありますか!?」
「どうしたの?」
なんだか、いつもより積極的な接客だ。
「ちょっと、やってほしいことがあるので、さきに、さーびすしようと」
「やってほしいこと?」
「はい!」
スライムさんが、きりっ、とした。
「なに?」
「ぼくの、せきずいをぬいて、けんにしてほしいです!」
きりっ!
私はお茶を飲んだ。
「もう一回言ってくれる?」
「ぼくの、せきずいをぬいて、けんにしてほしいです!」
「せきずいって、なんだっけ?」
「せぼねの、やつです! せぼねのなかに、あるので、せぼねをずぼっとぬけば、だいじょうぶです!」
私はお茶を飲んだ。
「まず、スライムさんは、背骨、ないよね?」
「はい……」
「あと、背骨を抜いたら、大変だよね? 命が、あぶないよね?」
体がぐにゃぐにゃになる、とかじゃなくて、大事なものがかなりなくなってしまう。
「はい……。でも」
「でも?」
「ぼくは、もともと、せぼねがないので、ぬいてもへいきかとおもって」
抜いたら死ぬかもしれない。
でも、ないから、抜いてもだいじょうぶ。
だいじょうぶ?
……?
私はお茶を飲んだ。
「背骨を抜いて剣、ってなに?」
やっと、一番の疑問が言えた。
「あたまをもって、せきずいを、ずぼっ、とぬくと、くびとつながってる、せぼねが、ずるずるぬけて、それが、けんになるらしいんです」
「ねえ、残酷すぎない!?」
死んでしまった人にやるのでも、なんだかすごく残酷な気がしてしまう行為だ。
完全にだめだ。
「せかいは、ざんこくです」
スライムさんは、重々しく言った。
「そもそも、背骨を抜いても剣にならないでしょ!? 誰かが言ってたの?」
スライムさんが自分で思いつくとは考えられない。
「なんだか、ほかのまちで、はやってるらしいです!」
「悪魔みたいな話だね!?」
「はい! まものである、ぼくも、びっくりです!」
スライムさん、きりっ。
私はお茶を飲んだ。
「お茶がなかったら、落ち着けないところだったよ」
「ぼくのおかげですね!」
「ありがとう!」
「どういたしまして!」
私はお茶を飲んだ。
「その町、戦争でもしてるの?」
「わかりません。でも、その、せきずいけんをつかえるのは、ひとりだけ、らしいです!」
「せきずい剣」
地獄みたいな名前だ。
「なんでそんなことに……」
「ぶきがなくても、けんがよういできる、という、りてんがあります」
「そんなことができるのに、武器がないんだ……」
「ふしぎですね!」
私は考える。
最初は、せきずいを剣にして戦う、ということがとてつもなく残酷に思えた。
けれど、そうじゃなくても、人を殺してしまうような人は、残酷だ。
だったら同じことなんだろうか。
武器があるのに、せきずいを剣にしていたら、娯楽でやっているようにも思える。
でも剣がないなら、その人にとっては、しょうがないのかもしれない。
……しょうがなくないよね?
私はふと思った。
「でも、戦う相手は、せきずい、持ってないのかな?」
「どういうことですか?」
「せきずいを抜いて剣にできるなら、相手のせきずいを抜いたら、勝ちじゃない?」
頭を持って、せきずいなんて抜かれちゃったら、生きていられないだろう。
武器を用意するより、せきずいを抜いたほうが早そうだ。
「誰かのせきずいを使って戦うより、そっちのほうが強そう」
せきずい剣というより、せきずい抜きだ。
「残酷だけど」
「なるほど!」
「でも、スライムさんみたいな相手だったらだめだね」
「だめでしたね!」
「……あ、まわりにスライムしかいなくて、相手もスライムだったら、せきずい剣、使えないね」
「! はい!」
「せきずい剣、やぶれたり」
「やぶれたり!」
私たちはせきずい剣をやぶった。
「スライムが最強!」
「すらいむ、さいきょう!」
せきずい剣の衝撃を、そうやってごまかしながら、私はお茶を飲んだ。
「せきずい抜く人、この町に来ないよね?」
「はい!」
スライムさんは元気よく言った。




