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232 スライムさんと夜の

「じゃあ、そろそろ帰るね」

 外を見ると、空の色は、オレンジ色から紺色に変わりつつあった。


「もう、よるになりそうですしね!」

「うん」

「そうだ、よるといえば」

 スライムさんはちょこちょこ、外に出た。

 私も出る。


「ことばの、さいしょに、あるものをつけると、へんなふんいきになる、らしいんです!」

「あるもの? 変なふんいき?」

「はい!」


「それは、よるの、をつけることです」

「夜の?」

「そうです! それをつけると、どんなものでも、べつのいみをもつのです!」


 スライムさんは言った。


 全然、ピンとこない。


「夜の、をつけるだけで?」

「そうです!」

「じゃあ……。夜のスライムさん」

「くらいから、ぼくのすがたは、みづらいですよ!」

 実際、いまもちょっと、見にくくなっている。


「これが、変わったってこと?」

「ちがいます! もっと、かなり、かわるみたいです!」

「それなら、夜の薬草とか」

「いつでも、かわらぬ、おいしさです!」

「夜のよろず屋」

「へいてん、へいてん! またのごらいてんを、おまちしております!」

「夜の剣」

「きれるほうを、もたないように、きをつけて!」

「……なにか、特別だった?」

 私が言うと、スライムさんも、うむむ、と考えていた。


「たしかに、いうほど、べつないみでも、ないですねえ」

「ね」

「じゃあ、ぼくがいいます! よるの、えいむさん!」

「寝てるね」

「よるの、べっど!」

「私が寝てるよ」

「よるの、まくら!」

「私の頭がのってる」

「よるの、くつ!」

「家に入ったらスリッパだよ」

「だめですねえ……」

 スライムさんは、はあ、はあ、と息を切らせていた。


「ちょっと、かたよってた気もするけど」

「よるの、をつけたところで、いみがない……?」

「でも、もしかしたら、もっと複雑な話かもしれない……」

「どういうことですか?」


 私は、あごに手をそえた。


「私は考えたのだ」

「おお! あたまが、よさそうです!」

「ふふ。考える人によって、ちがうのかもしれないね」

「どういうことですか?」


「夜が、暗いとか、そういうことだけじゃなくて。なにか思い出がある人は、ちがうでしょう?」

「よるに、たたかったとか?」

「あ、うん」

 そういう人は、夜のスライムと聞いたら嫌な印象かもしれない。


「夜に寝ない人とか」

「! よるの、べっどが、からっぽです!」

「夜に町を守ってる人とか、いるもんね」

「ありがたいですね」

「うん」

「ぼくらは、つねに、おもいこみでいきているのだ……」

「そうだね」

「と、いうことは?」

 スライムさんが私を見た。


「なに?」

「そろそろかえらないと、まっくらですよ!」

「あ、本当だ!」


 空は、かけ足のように色が変わってきていた。


「帰るね! また明日!」

「はい!」


 私は、手を振って、夜になりかけの道を小走りで帰った。

 夜の帰り道。

 ……暗いね。

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