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227 スライムさんと落ちこむ

 お店に入ろうと思ったら、建物の横からなにか聞こえた。

 まわりこんでみると、バケツの横に、スライムさんがいた。


「はあ……」

「ため息?」

「ああ、えいむさん……。はあ……」

「こんにちは。ごきげんななめ、だね?」

「えいむさん……。たいへんでしたね……」

「私が!?」

「げんき、だしてください……」

「落ちこんでるのは、スライムさんでしょ?」

 私が言うと、スライムさんが、するどく私を見た。


「それです!」

「ど、どれ?」

 私は一歩さがった。


「おちこむ!」

「落ちこむ?」

「こむって、なんですか!」

「こむ?」

「そうです!」

「ああ、落ちこむの、こむ。こむ、かあ……」

 私は考えた。


「そういえば、気分が落ちこむって言うよね。でも、落ちるだけでもいいのに、落ちこむっていうよねえ」

「はい! どうして、こむ、がついてくるんですか! こむは、なにものですか!」

「なんだろうねえ。入りこむとかも、いうよねえ」

「はい」

「のぞきこむとか?」

「はい!」

「押しこむとか」

「いっぱい、たとえが、でてきますね! えいむさん! ぜっこうちょうですね!」

「へへへ」

 私は頭をかいた。


「こむって、なんですか! あらゆるげんごを、びこう、してますか!?」

「そこまであらゆる言語を追いかけてないと思うけど。たとえば、押しこむだと、押すよりも、奥に入れてる感じかな?」

「そうですね! おす、よりももうちょっと、おくに、はいってるきがします!」

「力も入ってそう」

「ぐいぐいです!」

「……あとは、ねらってる場所があるとか?」

「! そうですね! なんだか、ちらかった、ものおきに、むりやりいれておいて、もう、かんがえたくない、きがします!」

「スライムさん、ちゃんと掃除してる?」

「いまは、こむ、のはなしですから!」

 スライムさんは、きっ、と私を見た。


「つまり、こむは、なんだか、もくてきちが、あるきがします!」

「つまり……。落ちこむは、ねらっている?」

「えっ?」

 スライムさんは、ぷるん、とゆれた。


「どこか、ねらった場所に、落ちていく? 原因が、はっきりしているとか?」

「ぼくは、ねらっていた……?」

 スライムさんが、きりっとした。


「なんで、きりっ、としたの?」

「ただおちるより、ねらっておちたほうが、かっこよくないですか?」

「そうかもね?」

「そうです!」

 スライムさんが、ますます、きりっ、とした。


「ぼくは、おちこんでいます……!」

「お! ねらってるね」

「ねらってます! おち、おちいってます!」

「意味が変わった気がするけど」

「おち、すすんでます!」

「うん、なんだか前向きになった気がする」

「おち……」

「おち?」

「おちあがります!」


 スライムさんは、お店の中に入っていくと、ぴょーん、とカウンターの上に乗った。


「お!」

「ぼくは、かんぜんに、おちのぼりました!」

「落ちていたはずが、のぼっていた……。やるね! スライムさん!」

「はい! ぼくはすごいので! どっとこむです! どっとこむってなんですか!」

「知らないよ!」

 どっと、お店が混んできたから、つかれて落ちこんでいたんだろうか。


「でも、こむ、のかいけつ、できましたね! あがればいいんです!」

「今度から私も、落ちこんだときは、あがるように気をつけてみる」

「はい! いっしょに、おちあがりましょう!」

「そうだね!」

「おちたときは」

「落ちあがる!」

「これで、かいけつ! ふっふっふ。いつまでも、こむに、びこうされませんよ! こんどからはぎゃくに、ぼくが、こむを、おいかけてやります!」

「その意気だよ!」

 よくわからないけど、これなら、落ち込まなくなるような気がするので、よかった。

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