221 スライムさんと川のむこう
「そうそう、えいむさん、これはどうですか」
薬草がお店の中に生えてきたら楽なのに、と言っていたスライムさんが、ふと思いついたようにカウンターの横の箱を押してきた。
「なに?」
「これです」
開けてみると、中には、人形が入っていた。
カウンターにならべてみる。
「おじさんと、やぎと、おおかみです」
「ふうん?」
「これは、かわをわたる、くいずにつかいます」
「ふうん?」
スライムさんは、人形を片側に寄せた。
「まず、おじさんがいます。おじさんは、おおかみと、やぎと、きゃべつをもってます」
「ふうん?」
「きゃべつは、これで」
スライムさんは、カウンターの中から薬草を持ってきた。
「おじさんは、ふねで、かわをわたることになります。かわをわたるとき、おおかみ、やぎ、きゃべつ。このうち、どれかしか、いっしょにのれません。そして、おおかみとやぎを、ふたりきりにすると、おおかみは、やぎをたべてしまいます。やぎも、きゃべつと、ふたりきりにすると、きゃべつをたべてしまいます」
「あらら。おじさんが、見てないとだめなんだね」
「おじさんは、どうやったら、うまく、たべられないように、はんたいがわに、わたれるか! というもんだいです」
「なるほど」
私は、おじさんと、ヤギと、オオカミと、薬草を見た。
「おじさん。オオカミ。ヤギ。キャベツ。だから、おじさんが、オオカミを連れて反対側に行っちゃったら、ヤギがキャベツを食べるから、だめってことだよね?」
「そうです!」
「じゃあ、ヤギを連れていけば、オオカミとキャベツだけになるから、食べられないね」
「さいしょは、それであってます!」
「なるほど。でも、おじさんがもどって、最初の場所からオオカミを連れて反対側に行ったら、元の場所にキャベツ。反対側にヤギとオオカミだけになっちゃうよ」
「はい!」
「あれ? おじさんがキャベツを先に取りにもどったら、その間に、ヤギが食べられちゃうよ」
「はい! そこが、このもんだいの、だいじなところです!」
「ふうん?」
でも、ヤギを連れていったら、残されたオオカミとキャベツを迎えに行かないといけない。
うん?
「わかりませんか?」
「オオカミとキャベツには、別れをつげよう……」
「ちがいます! つげないでください!」
「そっか。……キャベツって、どうして一緒に行けないの?」
「なんですか?」
「最初にオオカミと、キャベツを反対側に連れていけたら、あとはヤギを迎えに行くだけだから終わりだよね」
「いっかいに、ひとつだけです!」
「キャベツ……。キャベツくらい、のれるんじゃない……?」
私は思った。
ヤギとオオカミの区別がないなら、キャベツくらい、いけるのでは……?
「きゃべつはきっと、いっこじゃないんです! たくさんです!」
「あー。それならしょうがないね」
「はい!」
「じゃあ、最初にオオカミを連れていって、急いでもどって、次にキャベツを反対側に持っていけば? ちょっとヤギが食べるかもしれないけど、たくさんあるなら、いいんじゃない?」
「えっと……」
スライムさんは、かたまった。
「やった!」
「! だめです! きゃべつは、ひとつも、かかせないんです!」
「どうして?」
「しごとです! しょうひんです! きっと!」
「うーん。じゃあしょうがないね」
「はい!」
「ええと、そのおじさんはふだん、なにをしてる人?」
「どういうことですか?」
スライムさんは不思議そうにした。
「オオカミを連れて、ヤギも連れて、商品のキャベツを運んでるの? どういう仕事?」
「やぎもしょうひんです! おおかみは、ごえいです!」
「護衛か。守ってくれてるんだね?」
「おじさんと、なかよしです!」
「そんなに仲がいいなら、ヤギを食べないでってお願いすれば……」
「おなかぺこぺこです! おおかみの、しょくよくが、まさる、じかんたいです!」
スライムさんが、ぴょん、ととんだ。
「そっか」
「はい!」
「……ひも、ないの?」
「ひもですか?」
「首輪とか。だって、ヤギも、オオカミも、そのままってことはないでしょ? どっちかには、首輪と、ひもくらい、ついてるんじゃない? それを、近くの木にしばっておいて……」
「ひもはないです! やぎも、おおかみも、おじさんのいうことを、よくききます!」
「じゃあ、食べないでって……」
「……」
「……」
「たしかに、おかしいですね」
スライムさんが、すこし不安そうにする。
「おかしなことが、おおすぎる……」
「でしょう?」
「ぼくは、だまされてたんですかね……?」
スライムさんが、不安そうにする。
「だまされたかどうかはわからないけど、なんか、変だよね」
「へんです! えいむさん、ごめんなさい! へんなもんだいを!」
「あやまらなくてもいいけど。スライムさんが悪いわけじゃないし」
「こころがひろいですね!」
「ふふ。心広エイムです」
「おお! では、やくそうをあげます!」
「どうも」
「むしゃむしゃ」
「むしゃむしゃ」
キャベツがなくなってしまった。
「あ。もしかして、二回目に行くとき、キャベツを反対側に持っていきつつ、もどるときにヤギを連れて帰れば……」
「なんですか?」
「なんでもない」
私たちは薬草をむしゃむしゃ食べた。




