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213 スライムさんと氷上

「うー寒い寒い、こんにちは!」


 私は冷たい空気の中を、最後は走るようによろず屋に入った。

 店内は静かだ。

 空気も冷たい。


「あれ?」


 すこし待ってみても、スライムさんは出てこない。


「スライムさん?」


 呼びかけてみても、しんとしていて、スライムさんは出てこない。

 どうしたんだろう。

 ほうっておいて、どこかにでかけたりはしないはずなのに。お店を休みにするなら、ちゃんとおやすみ、という看板を出すはずだ。


「……」


 なにか聞こえた気がした。

 中からではない?


 耳をすませて外に出る。

 空気は冷たいけれど、家を出たときのように顔が凍りついてしまうような感覚ではなかった。もうすっかり体が冷えているのかもしれない。


 また聞こえた。

 よろず屋の裏へと歩いていく。


「スライムさん?」

「えいむさん!」


 目が合ったのは、スライムさんだった。

 バケツに入っている。

 でも変だ。そう思ったのは、位置が高いからだった。


「スライムさん、浮いてるの?」

「ちょっと、たすけてもらえますか」

「助ける? あ」


 よく見ると、スライムさんは氷の上に乗っていた。

 スライムさんが体をゆらすと、下が氷にはりついていた。


「ばけつの、こおりに、のってみたんです」

「それでくっついちゃったんだね」

 私もくっついたことがある。家の近くの、すごく寒い日だった。

 あせって、指をひっぱろうとしたら母に止められた。落ち着いて、母が持ってきた、ぬるま湯をかけるとすぐはずれた。


「ちょっと待ってね」

 私は、バケツの取っ手を持つと、明るい、草原へと運んだ。


「どうしたんですか?」

「あったかいところにいれば、溶けるでしょう?」

「なるほど! さすがです!」

「あれ? でも」

「なんですか?」

「ちょっと失礼」


 私はスライムさんの横に手をあてる。

 よいしょ、と持ち上げてみると。


「お」

 すぽっ、とスライムさんの下の氷が外れた。

 氷は意外と薄くて、スライムさんが上でこれ以上暴れていたら、割れていたかもしれない。

 実際、草原に置くと、スライムさんがちょっと動いたらすぐ割れて、スライムさんは自由になった。


「さすがですね! かいけつです!」

「私の才能が、こわいね……」

「……! そうですね!」

 スライムさんは、ぷるん、とした。


「でも、どうして氷の上に乗ったの? こんなに寒いのに」

「こおりのうえにのると、そらをとべる、ときいたので」

「空を?」

「といっても、そんなにたかくは、ないですが。そらをとんで、くるくると」

「くるくると?」

「3かいてん、いや、4かいてん、くるくるできるようになると。そしてぼくは、そんなことを、やってみたいと!」

「氷に乗ると?」


 私は、割れて、溶けていく氷を見た。


「それ、本当の話かな」

「!? うたがうんですか!」

「氷の上って、すべるよね」

「もしくは、くっつきます!」

「だったら、とべないよね?」

「!? たしかに!?」

「なにかと、まちがった……?」


 私たちは、しばらく考えた。


「もしかして、高いところにある、氷?」

 私が言うと、スライムさんは震えた。


「それは……。たかいところからとべば、くるくるまわることも、できます!」

「でも、単純すぎるかな」

「そんなことないです! ぼくらは、せんにゅうかんに、とらわれていました。たかいところからとぶ。そんなことはないと。でも、ものごとは、たんじゅんなことを、つい、わすれてしまいがちです」

「そうかな」

「そうです! こたえはめのまえにあった……。それが、たかいところの、こおりです……」

 スライムさんは、重々しく言った。


「じゃあ、解決かな」

「はい! あとは、こおりにのると、こうそくでいどうできて、ひとをかんどうさせられる、ということもあるそうですけど、これもエイムさんならかんたんですね!」

「え」


 高速移動?

 氷の上なんて、動きが遅くなりそうだけど。

 それに感動……?


「うーん」

「うーん」

 私たちはまた、しばらく考えることになった。

 氷はすっかり溶けていた。

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