212 スライムさんとお年玉
「えいむさん、おかねをあげましょう」
スライムさんは言った。
「スライムさん、お金をあげましょう」
私は言った。
私たちは、にやり、と向かい合った。
「では、しょうぶですね!」
スライムさんは、さっき用意した小さいじゅうたんの前に移動した。
そこには、ふせられているコップが5個あった。
コップは中が見えないものだ。
中にはひとつだけ、10ゴールド硬貨が入っている。
これをあててしまった人が、10ゴールドをもらわなければならない。
それが。
「おとしだま、かいしです!」
スライムさんは言った。
お年玉だ。
このコップは私が硬貨にかぶせて準備したものだ。
だから私はどれか、知っている。
ということで、スライムさんが、順番に、私のぶん、スライムさんのぶん、と選ぶことになっていた。
「まず、スライムさんはどれ?」
「これです!」
スライムさんは、自分の一番近くのコップを選んだ。
「私のぶんは?」
「これですね」
スライムさんは、私のすぐ近くのコップを選ぶ。
「これでいいの?」
「はい!」
「私の作戦で、スライムさんの近くにあたりを入れてるかもしれないよ?」
「ふふ……。えいむさん。そういう、しんりせんをしかけてくることは、わかっていましたよ」
「やるね、スライムさん」
「ふふ……」
私は、スライムさんの前のコップを持ち上げた。
中身はからっぽだ。
「やりました!」
「私のぶんは、私の前のやつでいいの?」
「いいですよ! えいむさんは、うらの、うらが、すきですから!」
「そうなんだ」
私はそっと、コップに手をかける。
スライムさんが期待の目で見つめる中……。
「はい」
コップを持ち上げると、からっぽだ。
「……やりますね、えいむさん」
「ふふ」
あとは3つ。
ちょうど、横一列に残った。
私はスライムさんのとなりに移動した。
「次に選ぶのが、スライムさんので、その次が私の、最後がスライムさんのだよ」
「……おや? ぼくのほうが、おおい? ふりでは?」
「気づいたね」
「! ぼくが、どこのこっぷかすいりしているあいだに、えいむさんは、べつのさくせんを……!」
「ふふ。スライムさん、私に勝とうなんて、あまかったね」
「ずるいですよえいむさん! ……なんて、いったら、なさけないですね。きづかなかった、ぼくが、わるいのですから」
「スライムさん?」
「ぼくは、このじょうけんでも、かちます!」
スライムさんは、きりっ、と私を見た。
「どうしても、って言うなら、順番を交換してもいいよ?」
「ふふ。ぼくは、このままかちます!」
「すごい……! 正々堂々以上の、すごみを感じる……!」
「ふっふっふ!!」
「じゃあ、えらんで!」
「みぎと、ひだりです!」
スライムさんは、ささっ、と左右に動いた。
「まんなかじゃなくていいの?」
「いいです! えいむさんは、そういう、すなおなことはしないです!」
「そうかなあ。じゃあ、どっちが先?」
「ううむ……。みぎです!」
「右だね?」
「あ、ひだりです!」
「左だね?」
「はい!」
私はコップを持ちあげた。
からっぽだ。
「やりました!」
「じゃあ私のぶんは、右でいいの?」
「はい!」
私はコップを持つ。
「これで、からっぽだったら」
「えいむさんの、かちです!」
「いくよ」
「はい!」
私はゆっくりコップを上げた。
からっぽだ。
「やられた!」
スライムさんは、ぷるん、とふるえた。
「私の勝ちだね」
「はい……。おかねをもらうしか、ない……」
「ねえスライムさん」
「なんですか?」
「なんで、お金をもらったら負けなの?」
「……えいむさん」
「なに?」
「おかねというのは、もっているほうが、いい。そういうおもいこみを、なくすためのあそびです」
「深い意味があったんだね」
「そうです。おかねをえるのではなく、おとす。そうすることで、みらいをみる。それが、おとしだまです」
「なるほどねえ」
私が言うと、スライムさんは、わかってくれてよかったです、とにっこりした。
「あるいは、かみさまがかんけいしている、というせつもありますが」
「神様?」
「きにしないでいきましょう……。いまは、こころのままに……」
私はコップを片づけようと、手にとった。
「あれ?」
最後のコップを持ち上げると、なにもない。
10ゴールドは?
入れ忘れた?
……もしかして、私はスライムさんをだましてしまった?
お金が入っていなければ、最後に順番がまわってくるスライムさんは、コップをあけることなく、負ける。途中で硬貨が出てくることもないから、私は負けることがない。
必勝法だ。
でも、私はそれを狙ったわけじゃない。
なんということだ。
スライムさんは、横を向いていて気づいていないようだった。
「スライムさん……」
「どうしましたか? かみさまのはなしですか?」
「神様じゃなくて……。私は、あやまらないといけないことが……」
「あやまる? なんですか?」
私はコップを置いた。
「あれ?」
すると、コップの底に、硬貨がはりついていた。
指をのばしてさぐってみると、とれた。
なんだか硬貨の片面がべたべたしている。どうやら、コップか、それとも硬貨に、ベタベタしたものがくっついていて、それを私はいったんコップに入れてしまったようだ。
気づかずコップをふせて、そのまま、お年玉を始めてしまった。
そういうことのようだ。
「えいむさん。しょうじきにあやまるのは、いいことです。えんりょせず、どうぞ」
「やっぱりだいじょうぶだった」
「えいむさん?」
「平気だった」
「えいむさん、しょうじきに、なりましょう……」
スライムさんは、すべてを悟ったように私を見ていた。
「じゃなくて」
「えいむさん……」
「じゃなくて本当に」
「えいむさん……」
「だからね」
「えいむさん……」
スライムさんは、すべてを悟り続けていた。




