205 スライムさんと名前
「いらっしゃいませ、ぺんたごんさん」
私がお店に入ると、スライムさんはそんなことを言った。
「おや? 私はエイムだよ」
ひさしぶりに名前がわからなくなってしまったんだろうか。
「ふふ」
「スライムさん、もしかしてわざとまちがえた?」
「ふふ」
「あー、いけないスライムさんだ」
「そうです。なまえは、きちんと、あつかいたいです」
スライムさんは、きりっとした。
「なまえは、だいじですよね?」
「うん。そうだね」
「ぼくはついにきづいたんです!」
「おめでとう」
「そこでおもいました。なまえをよばれたとき、ちゃんとしたなまえのときだけ、へんじをしようと!」
スライムさんは、私を見た。
目の奥に固い決意を感じる。
「まちがえた名前のときは、返事をしない?」
「はい! それが、だいじにあつかう、ということです!」
「そっか。でも、スライムさんって呼んだときだけ返事してると思うけど」
私もちゃんと呼んでるし、スライムさんが変なときに返事もしないような。
スライムさんは、唇? をかむようにまきこんだ。
「でも、じつは、すらいむさん、ってよばれたっぽいな、とおもったときも、へんじしたことあるんです」
「そうなんだ」
「ぼくはだめなすらいむです……」
「そんなことないよ。話をしているとき、ちゃんと聞こえなくても、こう言ってるかもしれない、と思って話をすすめることあるもん」
「えいむさんもですか?」
「うん」
「じゃあ、えいむさんも、だめなえいむさんですね」
「そっか。私はだめなエイムだったのか……」
衝撃の事実だった。
「きちんときこえていないなら、ききなおさないと、いけませんよ」
「はい。わかりました」
「これはいいえいむさんですね!」
「いまのは、いいエイム」
「はい」
「やったね!」
「はい! これから、だめなふたりとは、おさらばです!」
「そうだね!」
「じゃあ……。なまえよびの、くんれんに、つきあってくれますか?」
スライムさんは言った。
スライムさんはカウンターの上に、私はカウンターの前に置かれた椅子に座った。
「では、名前を呼びます」
「はい!」
「……スライムさん」
「はい!」
「スロイムさん」
「……」
「スライムくん」
「はい?」
「スレイムさん」
「ちょっといいですか」
スライムさんは、きりっ、とこっちを見た。
「ん? なに?」
「すらいむくんって、どっちですかね」
「くん?」
「いつもよばれてないので」
「スライムさんは、スライムなんだから、スライムくんでも正解なんじゃない?」
「わかりました」
「じゃ、続けるね。スライム氏」
「はい?」
「スレームさん」
「ちょっといいですか」
スライムさんは、きりっ、とこっちを見た。
「なに?」
「し、はどっちですかね」
「これも同じじゃない?」
「すらいむ、だから、へんじをする、ということですか?」
「うん」
「わかりました!」
「じゃあ続けるよ。スライムどん」
「はい?」
「セレイムさん」
「ちょっといいですか!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「どうしたの?」
「どうしてもこうしたもないですよ! えいむさん!」
「うん?」
「わざと、よびまちがえてますよね!」
「そういう練習でしょ?」
「くんとか、どんとか、しとか、そういうところじゃないんです! もっと、すらいむ、のところをやってください!」
「わかった」
「おねがいしますよ!」
スライムさんは、ぷんすかしながらカウンターの上で自分の立ち位置を整えた。
「じゃあいくね」
「はい!」
「スライムぽん」
「こら! えいむどん!」
「おっ? やったな?」
「ふっふっふ! ぼくをおこらせると、こういうことになるんですよ、えいむし!」
「ミスタースライムめ!」
「おっ、えいむえいむ!」
「くりかえしたな!」
「えい!」
「へらしたな!」
「ふっふっふ!」
「スライムさん!」
「えいむさん!」
「はい!」
「はい!」
「よし!」
「よし!」
私たちは一緒にきりっとして、にっ、と笑った。




