200 スライムさんと2000ゴールド
私は早足でお店に入った。
「こんにちは!」
「いきおいが、ありますね!」
カウンターの上にいたスライムさんが、ちょっとびっくりしたみたいに私を見ていた。
「今日は風が冷たいね」
外の空気から逃げられて、私はほっとした。
「ひんやりしますね」
スライムさんが、体をぶるっ、とさせた。
「おのみものでも、どうですか?」
スライムさんは、カウンターの上にあるコップを、ぷに、と押した。
透明なコップには、オレンジジュースらしい濃い黄色の液体と、氷が浮かんでいた。
からん、と浮かんでいた氷が音を立てる。
「冷たいもの……?」
「あたたかいほうがいい。そういういけんもあります」
「そうだね」
「でも、よういする、ということをかんがえたとき、どうですか?」
「どう?」
「さむいひは、つめたいもののほうが、ようい、しやすいですよね?」
スライムさんが、きりっ、とした。
「たしかに、用意しやすい」
「でしょう!」
「ちょっと、飲んでみようかな」
私はコップを取り、口をつけた。
すると私の体の中に残されていたあたたかさが、オレンジジュースの冷たさに上書きされていくようだった。
さっきよりもずっと寒い。思ったより体が冷えていたのかもしれない。
「冷たい」
「やはり」
「なかなか刺激的だね」
「しげきてきですか?」
「寒いときに冷たいもの。なんだか、悪いことをしている気がするよ」
私はにやりとした。
「えいむさんも、わる、ですね……」
スライムさんも、にやり、とした。
「ふふ……」
「では、2000ごーるど、いただきます……」
「高いね……」
「じょうだんですよ……。じつは、こんなものを、さっき、みつけましてね……」
「こんなもの?」
「はい!」
スライムさんが、にやにやをやめて、カウンターの下に行った。
すぐぴょん、ともどってきた。
「これです!」
スライムさんが置いた金色の硬貨には、2000、と書いてあった。
数字は上のところで、下側には、どこかの湖の絵が刻まれている。
「これは?」
「2000ごーるどです」
「2000ゴールド硬貨なんてあるの?」
2000ゴールドといえば、薬草をたくさん買える。
薬草ひとつ7ゴールドとするなら、300個、とまではいかないけど、ものすごくたくさん買える。
「あるんですよ!」
「すごい価値なのに、意外と小さいんだね」
硬貨の大きさは、100ゴールド硬貨と変わらないくらいの大きさだ。
「もしかして、これって純金?」
「おめがたかい! さすがえいむさん!」
「貴重品だね」
「どうして、きちょうだとおもいます?」
「純金だったら、絵がなくなって、どろどろに溶けても、しっかり価値がありそうだから安心だね」
「さすがえいむさん!」
スライムさんは、くるっ、とまわった。
「でも、1000ゴールドでもそんなに使わないんだから、2000ゴールドなんて、使わないんじゃない?」
高い買い物でも、1000ゴールド硬貨がいくつかあれば足りるような気がする。
「ふっふっふ」
「おかねもちは、いちどに、たくさんのおかねが、ひつようになることがあります。そんなとき、1000ゴールドをたくさんあつめるよりも……?」
「2000ゴールド硬貨なら、半分の数ですむ!」
「そのとおりです!」
スライムさんは、びしっ、とポーズをとった。
「だからです!」
「なるほどねえ。じゃあ、お金持ちは、2000ゴールドをたくさん使うんだね」
「そうでもないです」
「えっ?」
「やっぱり、1000ごーるどのほうが、わかりやすいので」
「でも、一度にたくさんお金を使うときは?」
「そういうときは、ほうせきとかのほうが、べんりです!」
「そっか。あとは、金塊とか?」
「です!」
「なるほどね」
「そうして、つかわれなくなっていきました……」
「そっか……」
私は、2000ゴールド硬貨を見た。
「あれ? だったら、どうしてスライムさんはこれ、持ってるの?」
「あえて、てにいれました……」
「あえて?」
「はい……。つかいにくいものを、あえて、てにいれて、たまに、つかってます……。あえてね」
「スライムさんも、刺激を求めてるの?」
「ふふ……」
スライムさんは、にやりとした。
「スライムさんも、わる、だね?」
「ふふ……」
「ふふ……」
「ふふ……」




