193 スライムさんと食前の薬
スライムさんのお店に入荷した、ナイフのようなフォークと、フォークのようなナイフを見ているとき、スライムさんが言った。
「えいむさんは、はじめてのりょうりをたべるとき、どうですか?」
「どうって?」
「ふあんですか? おいしくないかもしれないですよ?」
「そうだねえ。食べたことがあるものが入ってたら、味が想像できるけど、そうじゃないとよくわからないよね」
「そんなとき!」
スライムさんは、カウンターの下に降りてから、すぐ上にぴょん、ともどってきた。
なにかくわえている。
それをカウンターに置いた。
私の手のひらくらいの大きさの、紙の箱だ。
厚さも私の手のひらくらいしかない。
色は葉っぱみたいな緑色。
「なにそれ」
「あけてみてください!」
「うん」
手に取ると、中でからから転がるような音がした。
かたむけると、箱の中から、ころん、と黄色い粒が出てきた。
「それは、おいしくないものをたべたときのあじが、あんまりしなくなる。しなくなーる、くすりです!」
スライムさんは言った。
「おいしくない味がしなくなる?」
「あんまり、です」
「あんまりしなくなる」
「はい!」
「そんなものが」
黄色い粒は、球体で、小さいぶどうの粒くらいの大きさだった。
「だから、はじめてのたべものをたべるときに、いいですよ!」
「おいしい味はするの?」
「はい!」
「それは便利だね」
「はい!」
私は粒をよく見た。
「でも、大きくない? 飲めるかなあ」
「がりがり、たべるものです!」
「そういうやつか」
「そういうやつです!」
「じゃ、食べてみてもいい? あ、高いものじゃないよね?」
「おやすいですが……」
「が?」
スライムさんは視線を落とした。
「あんまり、おいしくないです」
「え、そうなの?」
「とても、おいしくないものをたべるために、あんまりおいしくないものをたべる。むずかしいものです」
スライムさんは、しみじみと言った。
「じゃあ、食べないほうがいいのかなあ」
「でも、とてもおいしくないものだったら、がっかりします! それを、やわらげますよ!」
「じゃあ、食べたほうがいいのかなあ」
「どっちがいいか、ですね」
この粒は、確実においしくない。
でも、これから食べる料理は、おいしくないか、おいしいか、わからない。おいしいかもしれない。
「すごくおいしくなかったら、嫌だなあ」
「だったら、たべるといいですね!」
「でも、あんまりおいしくないのも、嫌だなあ」
「じゃあ、たべないほうがいいですね」
「スライムさんはどっち?」
スライムさんは、ふふ、と笑う。
「ぼくは、ちょっと、あじみしてから、きめます!」
「あ、頭いい!」
「そうですか?」
「すごいよ!」
「そうですか!?」
「すごい!」
「そうですかあ!!??」
「すごい、すごい!!」
「すごい!!! すごい!!!」
私は、謎の粒を箱にもどしてから、スライムさんに向かって拍手をした。
スライムさんがうれしそうだったので、長めに拍手した。




