187 スライムさんとひんやり
よく晴れた日。
私は、川に向かって歩いた。まだ暑くてどうしようもないというわけではなく、ちょっと肌に汗がにじんでくるくらいの天気だった。
川原を、流れにそって進みながら、ちょうどよさそうなところを探す。
小石が多くて、あまり深くない。ここかな。
そう思ったところに、網に入った果物を沈めた。
川の流れはおだやかだけど、それでも流されないように、川上と反対側に、石をいくつかならべた。
よいしょ、と草が生えているあたりに座ったとき。
「うー!」
下から変な声がしたのであわてて立ち上がると。
べろん、と草の生えていたあたりがはがれた。
すごく小さなカーペットのようなものの中から現れたのは。
「スライムさん!」
「あ、えいむさん!」
「なにしてるの?」
「ちょっと、あたらしいどうぐを、つかってみたところでした」
カーペットみたいなものは、表面に、にせものの草がたくさん生えている。
裏側は、つるつるだった。
穴をほって、その中にスライムさんが入って、上にカーペットをかけた、ということのようだ。
「とつぜん、おおきなしつりょうに、おしつぶされそうになりました……」
「ふうん。なんだろうね」
「えいむさんは、つぶされませんでしたか?」
「うん。あと、わたしは大質量ではないし」
「なんですか?」
スライムさんは言いながら、川の、果物に気づいた。
「あれは……?」
「私が置いたの」
スライムさんは笑った。
「およげるように、れんしゅうを? えいむさん、くだものはおよげませんよ!」
「冷やしてるんだよ」
「川でですか?」
「うん。ちょうどよく、冷えるんだよ」
「ほうほう」
スライムさんは、興味深そうに、網に入っている果物を見ていた。
「あとで食べようね」
「ぼくのぶんですか?」
「うちのぶんだけど、おすそ分け」
「! やりました!」
スライムさんは、ぐっ、と丸くなった。
「よいしょっと」
私は川岸にすわって、靴を脱いだ。
足を水の中に入れる。
「うー」
思ったよりひんやりしていて、声が出てしまう。
「どうしましたか?」
「ちょっとびっくりしただけ。冷たくて気持ちよくなってきた」
「きょうは、あついですからね!」
数日前から、じりじりと、頭のすこし上に熱を発するものが浮かんでいるみたいになっていた。
「ふう」
「ぼくも、ひんやりしたいですねえ」
じり、とスライムさんが川に近づく。
「だめだめ。スライムさんが川に入ったら、どんどんふくらんじゃうでしょう?」
川の水を無限に吸収したら、スライムさんが川になってしまう。
「まずいですか?」
「まずいよ。まずいよね?」
私は、スライムさんとなってしまった川にやってきて、バケツで、ちぎったスライムさんを持っていく人たちを想像した。
ざんこくなようにも思えたけれど、スライムさんが痛くもなんともないのなら、どうなんだろう。
水がこぼれないで、その場でぷるんと残っているのは場合によっては便利な気がする。
病気で、熱が出て、頭を冷やしたい人とか。
「ぼくも、ひんやりしたかったですねえ……」
「スライムさんも暑い?」
「そうですねえ。そこそこですね!」
「そこそこかあ」
「はい!」
「じゃあ、こうしよう」
私は、川の水を、手のひらですくった。
それをスライムさんの上からかける。
「ひょっ」
スライムさんが変な声を出した。
「どう?」
「つめたいですよ!」
「気持ちよくなかった?」
「そうですねえ……」
スライムさんは動きを止めて、いまのできごとを振り返っているようだった。
「おもったより、しげきがつよかったです!」
「そっか」
「でも、かわはすずしいですね! かわのうえをながれていったら、きもちいいかもしれませんね?」
「そうだね。……それ、やったことなかった?」
「え?」
「川が涼しい理由を教わったとき、スライムさんがやってたような?」
「……、なつは、ひとを、かえてしまうのかもしれませんね……」
「どういうこと!?」
「ちなみに、もりがすずしいりゆうも、かわがすずしいりゆうと、にたところがあります」
「どんな理由?」
「みずをかけてくれたら、おしえてあげるか、かんがえます!」
「考えるだけなの?」
「はい! ふっふっふ。もったいぶりすらいむです!」
私はちょっと考えた。
「じゃあ、やめとこう」
「えっ!? どうしてですか!」
「ふっふっふ」
「え? もしかして?」
「もったいぶりエイムです」
「やっぱり! あの、もったいぶりえいむさん!」
「はじめまして」
「こんにちは! こんなところでおあいできるなんて!」
「ふっふっふ。水をかけようか、かけまいか、どっちにしようかあ」
「ああ、もったいぶってますねえ!」
私は、手で水をすくってから、何度か、スライムさんにかけるふりをして遊んだ。
「くー! もったいぶるー!」
「ふっふっふ」




