186 スライムさんは牛
「こんにちは」
よろず屋に入った。
いつものように、カウンターに、しゅっ、と現れるのを待ったけれど、全然出てこない。
どうしたんだろう。
もしかして?
私は、カウンターの中に入ってみた。
しゃがんでから、元気に立ち上がる。
「いらっしゃいませ! ……。……」
待ってみたけど、スライムさんは出てこない。
逆の立場を求めていたわけではなかったらしい。
そこでふと気づいた。
薬草のたなが、からっぽだ。
もしかして。
お店を出て、裏庭に向かった。
「スライムさん」
裏庭の薬草畑に、スライムさんのひょこひょこ動く青い体が見えた。
薬草をとりに来ただけだったんだ。
スライムさんは、こっちをちらっと見たけど、すぐ薬草に視線をもどしてしまった。
あれ?
「スライムさん」
私はすぐ近くで、あらためて呼びかけた。
スライムさんは、私を見る。
「うしです」
「え?」
「うしって、くさをたべますよね?」
「うん」
「ぼくって、やくそうをたべますよね?」
「うん」
「ぼくは、うしですよね?」
「うん?」
私は、考えた。
しゃがむ。
「スライムさんは、牛ではない」
「えっ」
「なぜなら……。牛は、モーモーしか、言わないからだ」
私が推理をぶつけると、スライムさんは、ぐっ、と言葉につまった。
「わかりましたね? スライムさん」
「もー」
「スライムさん?」
「もー?」
「……もしかして、牛?」
「もー!」
スライムさんは、ぷるん、とふるえた。
「そうか。スライムさんは、牛だったのか」
「もー!」
「ということは……。私も、牛?」
「も、もー?」
スライムさん、いや、牛さんは、ぷるん? とふるえた。
「だって、私もよく、薬草食べてるし」
「もー」
「そうだ。それに、お母さんは、子どもが生まれたとき、おっぱいも出るよね。牛と同じだ」
「ももっ!?」
「待てよ……。もしかして、私だけじゃなくて、家の家族は、牛……?」
「も、もー! もー!」
私は、手足を地面につけてみた。
「モー」
「もー!」
スラ牛さんも鳴いている。
いや、いまは、私も牛さんだ。
「モー、モー」
「もー、もー」
「モーモー」
「もーもー」
私は、顔だけを近づけて、薬草を食べた。
牛さんも、顔を近づけて薬草を食べた。
いつもとまた、ちょっとちがう味わいがあるように感じた。
「モー?」
「もー!」
牛さんも、そうみたいだ。
「モー」
「もー」
「モーモー」
「もー!」
「モモ!」
「ももっも?」
「モーモー!」
「もも!」
私たちは薬草をむしゃむしゃ食べた。
モー!




