185 スライムさんと絵かきうた
「ん?」
よろず屋の近くの道。
その横の土に、なにかが描いてあった。
人の形のようだ。
ちょうど、寝ている人のまわりを、ふちどりするように線を引いているかのようだ。
すこし不吉な感じにも見える。
「ひとがひとり、おりました~」
楽しげな歌が聞こえてきた。
はっとして振り返ると、スライムさんがいた。
「うしろにいたの?」
「はい!」
「いま、歌ってた?」
「ふふ。おめがたかいですね、えいむさん!」
スライムさんは、こほん、と言ってまた歌い始めた。
「ひとがひとり、おりました~。あっというまに、ひと!」
スライムさんは、満足そうに私を見た。
「それは?」
「えかきうたです!」
「絵かきうた?」
「はい! うたのとおりにかくだけで、えが、できあがります!」
「なるほど」
私は、人の形をした線を見た。
「あれは、人なんだね?」
「そうです」
「でも、人を描けるんなら、歌わなくてもできるよね」
「おや?」
スライムさんは、私を見た。
「おやおや? えいむさんは、もっとながく、うたのとおりにかくほうが、おすきですか?」
「あるの?」
「では、こんどは、もっとこまかいのを、やってみますか?」
「うん」
「そこの、ぼうをつかってください」
私は近くに落ちていた、私の手のひらくらいの長さの棒を拾った。
スライムさんは、こほん、とひとつ。
「では、えいむさんのうたを」
「私の?」
「いきます。まるがひとつ、ありました~」
「はい」
私は丸を描いた。
「もひとつまるが、ありました~」
「はい」
「ぼうがいっぽんでてきたら~?」
「うん」
「あっというまに、えいむさん!」
「ええ!?」
私はびっくりして、止まってしまった。
「どうですか?」
スライムさんは、私の描いたものを見た。
「うーん。これでは、めがねですねえ」
「そうだね」
丸と丸を線でつないだだけの、とてもかんたんなメガネだ。
「私、メガネかけてないよ」
「そうですねえ。うまくできませんでしたね!」
「ちょっと、歌の内容が、すくなすぎない?」
私の言葉を、待っていたみたいにスライムさんは、にやりとした。
「えいむさん。いいわすれていましたが。えかきうたには、だいじなことが、ひとつあります」
「なに?」
「あっというまに、です」
「あっという間に?」
「えかきうたは、あるていど、てきとうに、うたいます」
「てきとうに」
「そしてさいごに、あっというまに、とうたいます」
「うん」
「その、あっというまに、のところで、えをかんせいさせなければならないのです」
スライムさんは言った。
「歌う人より、描く人の力が、試される……?」
「そうです!」
「むずかしくない?」
「しかし、そこが、うでのみせどころです!」
「そっか。私にはむずかしいかも」
「そうですか?」
「もっと、かんたんなものなら、歌って描けそうだけどね」
「! どんなものですか?」
「えっとね」
私は棒を持ち直した。
「棒が一本、ありました~」
「はい」
「細長円で、囲います~」
「はい」
「あっという間に」
私は細かい線を引いた。
「葉っぱ!」
「おお!」
スライムさんは、ぷるん、とふるえた。
「葉っぱの絵かきうた。かんたんすぎかな?」
「これはすばらしい……! かくめいですよ!」
スライムさんはぷるぷるふるえた。
「そう?」
「まさか、えかきうたで、ほんとうにえをかけるなんて……!!!」
「絵かきうただからね」
「すばらしい! すばらしすぎます!」
スライムさんは縦横にふるえた。
「もっと、もっとおしえてください! あ、ぼくもかいてください!」
「あっという間にスライムさん」
私は丸をかいた。
「もっとちゃんとやってください! せかいが、しんかんするような、かんせいどで!」
「それはむずかしいよ」
「たかい、やまほど、のぼるいみがある……。でしょう!?」
「……そうだね!」
私たちは、スライムさんの歌を研究した。




