180 もふもふスライムさん
「スライム、さん……?」
カウンターの上にいたのは、茶色い毛におおわれた生き物だった。
毛に包まれた中から、きらり、と目が光っている。
「えいむさん、こんにちは!」
「どうしたのスライムさん」
私は、おそるおそる近づいていった。
「はなせばながいんですが」
「うん」
「もふもふすーつ、です!」
スライムさんの目が、きりっ、とした。
「もふもふスーツ?」
「はい! これで、だれでもかんたんに、もふもふになれます!」
「ふうん? 前に、毛が生えてきたのとはちがうの?」
「ちがいます!」
スライムさんは、すぽっ、と出てきた。
「どうですか!」
「おおー」
「はっ!」
今度は、すぽっ、と中に入った。
「おおー」
「どうですか!」
「すごい」
「ふっふっふ!」
スライムさんはもそもそ動いた。
「これで、ぼくは、もふもふでもある、すらいむです!」
「もふもふスライム。冷たいのにあったかい、くらい、特別なスライムだね」
「はい!」
「どれどれ」
スライムさんの毛にさわってみる。
「うーん、これは、もふだね」
「もふです」
「もふもふだね」
私はスライムさんを持ち上げてみた。
「もふだな。もふ。もふ……」
私はスライムさんを抱えて、お店の外に出た。
「えいむさん?」
「もふ、もふ……」
私は草原に座って、スライムさんを抱えた。
そしてもふもふした。
「もふもふ、もふもふ」
「えいむさん?」
「今日は、ちょっとすずしい風がふいてるから、ちょうどいいなあ」
「えいむさん?」
「もふもふ、もふもふ」
もふもふした。
「もふもふ、もふもふ」
「えいむさん?」
「ちょっと横になってもいいな」
私は草がいっぱいあるところで、ごろりと横になった。
もふもふを抱える。
「もふもふ、もふもふ」
「えいむさん?」
「あー、もふもふ。もふだなー」
「えいむさん?」
「えいむさん? ……えいっ!」
もふもふの中からなにかが飛び出てきた。
スライムさんだ。
「あ、スライムさん。どうしたの?」
「これは、ちゅうしです!」
スライムさんは、私の持っていたもふの抜けがらをくわえると、ぴょこぴょこ走っていってしまった。
「え、スライムさん?」
お店の中に追いかけていくと、スライムさんは、ぷい、と横を向いていた。
「スライムさん、もふ、くださいな」
「いやです」
「え? なんでも売ってるお店じゃないの?」
「しりません」
「スライムさん?」
それから、何度お願いしても、スライムさんは、もふになってくれなかった。
ふしぎだ。




