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176 エイムと目薬

 朝から目が変だった。


 白目が赤い。

 血管からじわりと絵の具が染み出したように広がっていた。


 しばしばするというか、ごろごろするというか。

 そんな言い方はよく聞くけれど、どうなのかときかれると、目が痛いとしか言いようがない。


 昨日、母が縫い物をしているのを見ていたせいだろうか。

 顔を近づけると、母が困ったように笑って、あぶないよ、というのがおもしろくて、私はすぐ近くで見ていた。

 針が布に入り、出て、入り、出て、とくりかえしているのを見ていると、変わった生き物のようにも感じられた。

 意思があるというよりは、そういう動きをするのがあたりまえの生物だ。


 そう思いながらじっと見ていたら、いつの間にかできあがった。そしてきっと、母よりも、目に負担をかけていたみたいだ。


 外に出ると、どんよりとくもっていた。

 私はよろず屋に向かった。


 到着したのは、ぽつり、と顔に雨のつぶがあたったときだった。

 とたんに、音を立てて雨がふりはじめた。

 私は走ってよろず屋の、ひさしの下に入った。


「あれ」


 呼吸を整えてから、入り口がしっかりと閉じていることに気づいた。

 じっけんちゅう、という見たことがない札がかかっている。近くには、きゅうけいよう、という札が置かれた小さな椅子があった。

 ノックをする。


「スライムさん?」


 耳をすませたけれど、中から物音は聞こえなかった。

 じっとそうしていると、雨の音ばかり聞こえてくる。


 私は入り口の横の壁に背中をつけて、外を見た。


 頭の上を雨がたたく音がする。バババババ、とちょっと暴力的だ。


 離れたところからも音がする。ザー……、とこれはなんというんだろう。

 ひとつの音ではなくて、たくさんの、ザー……、が順番に私に向かってやってきているようだった。


 目を閉じた。


 頭の上からの音。

 前からの音。


 だんだん、どこにいるかわからなくなってくる。


 知らないところにいるような気がしてきた。


 毎日、ずっと、朝から晩まで雨が降ってくる国。

 そこで私は公園にいる。

 公園には雨が降ってきてもいいように、ひとやすみする椅子には、みんな屋根がついている。

 私はそこに座っているのだ。

 ひとり用なので、誰もやってこない。

 そこで雨の音を聞いて、いつもと同じだな、つまらないな、と思うのだ。

 なにがあったらいいんだろう。



「えいむさん、えいむさん!」

「ん?」

 目を開けると、スライムさんが私の足をふんでいた。


「起きましたか!」

「あれ、雨が降ってなかった?」

 外はすっかり晴れていた。

 地面もかわいているように見える。


「いねむりですか?」

「うん。スライムさんはどこにいたの?」

「なかにいましたよ! にもつをせいりしてました!」

「そうなの? 声をかけたけど、雨で聞こえなかった?」

「あめなんて、ふってましたか?」

 スライムさんは、ぷに、と体をかたむけた。


「ええ? おかしいなあ」

「まあどうぞ、せまいみせですが」

「これはどうも」

 私はお店の中に入った。


 壁にあった、金属の商品が目に入った。

 そこで思い出して、目を見る。

 赤くなっていない。


「どうかしましたか?」

「目が赤かったと思ったけど、気のせいだったみたい」

「そうですか! よかったですね!」

「うん」

 スライムさんが、カウンターにとびのった。


「きょうは、なにをおもとめですか!」

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