170 スライムさんと釣り
スライムさんの頭には、細長い棒が刺さっていた。
その棒の先からは糸がたれていて、スライムさんの前にあるバケツに入っている。
空は晴れていて、風もない。そんな日だった。
「なにしてるの?」
「つり、です」
スライムさんは言った。
バケツをのぞいてみると、水が入っている。
他のものは見えない。
「……ほほう。スライムさん、釣りですか?」
「はいそうです」
スライムさんは、なんでもないように言う。
「そうですか。なにか釣れますか?」
「そうですねえ。なかなか、きょうは、むずかしいですねえ」
「ほうほう? どうむずかしいですか?」
「さかなが、おとなしいですねえ」
「なるほど? 魚がおとなしいと、むずかしいですか?」
「むずかしいですねえ」
スライムさんは、ちょっと釣り竿をゆらした。
水面がゆれて、波紋がいくつも広がった。
「釣りって、どうむずかしいの?」
「えいむさんは、つり、やったことありますか?」
「ないよ」
「つりというのは、さかながげんきだと、よく、つれます」
「そうなんだ」
「はい! さかなが、つりばりに、ひっかかると、つれるんです。げんきだと、ほんとうはひっかかったらいけないのに、つい、ひっかかります!」
「なるほど? おとなしいと?」
「つい、がなくなるので、ひっかかりません」
「そっか。元気なほうがいいね」
「はい!」
スライムさんがすこし動いたので、竿がぴくりと動いた。
「あっ」
スライムさんが言った。
「どうしたの?」
「かかりましたね」
「えっ」
「よいしょっ」
スライムさんが体を後ろにひょいっ、と動かすと、竿がひゅっと動いて、釣り糸が引かれて先についている針が光る。
そこには。
「あっ」
針には、なにか透明なものが引っかかっていた。
よく見ると。
「魚だ」
ガラスかなにか、透き通ったものでできた魚が針にひっかかっていた。
色はついていないけれど、ふくらみもあって、うろこの形もある。
水滴がぽた、ぽた、と落ちている。
「つれました!」
スライムさんが動くと、魚がゆれてキラキラ光った。
バケツをのぞいてみる。
よく見ると、底には、他にも透明な魚がいるようだった。
「えいむさんもつりますか?」
「いいの?」
「はい! えいむさんと、ぼくの、なかですから!」
「じゃあやる!」
私はスライムさんの頭から、すぽん、と竿を抜いた。
「どうやったらいいの?」
「つりは、まつのです」
「待つの? 自分からひっかけるんじゃなくて?」
「そうです」
「そうなんだ」
とはいえ、自分でひっかけないと、かからないんじゃないか……。
そう思ったけど、水の中にある魚は、ほとんど見えない。だから、竿を動かしてみても、ねらって魚の口にひっかけることは、とてもむずかしそうだ。
私は、すこーし、すこーしと、竿を動かした。
でもかからない。
「つりは、じかんがかかるのです」
スライムさんは言った。
「そのようだね」
「はい!」
ちょっとよそ見をしたとき、竿が動いてしまう。
そのとき。
「あれ?」
なにか、ひっかかったような。
ゆっくり上げてみると。
「えいむさん! やりましたね!」
透明な魚がひっかかっていた。
くるくるとまわって、キラキラ光る。
「ひっかけようと思ってなかったのに……」
「それが、まつ、ということです!」
「なるほど。これが、釣り……」
「はい!」
今度はスライムさんの頭に竿を刺し直して、スライムさんが釣りを始めた。
「まつのです……」
「……スライムさん、ひっかけちゃおうよ。逆に」
「そそのかさないでください!」




