169 スライムさんとすし
よろず屋へと歩いていくと、お店の前に、なにか置いてあるのが見えてきた。
バケツと、細長い箱だ。
バケツの中には水が入っていて、小さな魚が泳いでいた。
細長い箱には、刈り取ったらしい小麦が五本、入っていた。小麦は、本、で数えるのだろうか、とすこし考えていると、小麦の中にある紙に気づいた。
取り出してみると、文字が書いてある。
『すし』
『こくもつに さかなを のせる』
と書いてある。
ちょっと不安定な字だった。スライムさんが書いたのだろうか。
「スライムさん?」
お店の中をのぞいたり、まわりをさがしてみたけれど、スライムさんはいなかった。
私はまた、箱の前にもどってきた。
あらためて読む。
すし。
こくもつに、さかなを、のせる。
穀物というのは、小麦だろう。
魚というのも、魚だろう。
私は、すこし離れて、箱とバケツを見た。
魚を小麦の上にのせる。そういうことのように思える。
きっと、魚は命を危険を感じながら、小麦の上をはねることになるだろう。
それはいったい……?
「うーん」
なにかの儀式だろうか。
お祭り?
占い?
たとえば、なにかのお祭りの中で行われることだとする。
魚を、小麦の上にのせることで、どんなふうにはねるかによって、それがその年、小麦が豊作になるかどうかを、調べる。
それが、すし。
「それが、すし!」
口に出してみた。
言ってみると、合っているような気もしてくる。
すしとは、魚を使ってする占いかもしれない。
「うーん」
でも。
私は紙を置いて、バケツをそっと持った。魚の動きは、さっきまでと変わらないように見える。
私はバケツを箱の上に置いてみた。細長いので、落ちない。
これもあるか。
こういう保管の仕方を、すし、というのかもしれない。
通称、すし。
どっちだろう。
「ふっふっふ。はっはっは! はーっはっは!」
「この声は!?」
顔を上げると、よろず屋の屋根の上にスライムさんがいた。
「スライムさん!」
「えいむさん! それが、えいむさんのげんかいですか!」
「えっ?」
「とうっ!」
スライムさんは、一回うしろを向いてから、とびあがった。
地面で一回、ぶよん、とはねかえって、着地した。
「スライムさん、だいじょうぶ?」
「ふう……、ぎりぎりです」
スライムさんは、いつの間にかくわえていたパンを、小麦の箱の上に置いた。
「なにそれ」
「すしです!」
「えっ?」
パンは、私の手のひらくらいの丸いパンだ。
その上に、焼いた、小魚がのっている。
「これが、すし……?」
「すしとは、たべものなのです!」
「なるほど」
そういえば、魚が、穀物の上にのっている。
「そっか、これが……」
「さすがのえいむさんも、これは、わからなかったようですね!」
「うん。さすがのエイムさんは、祭りとか、占いだと思ってたよ」
考えてみれば、食べ物と考えるのが自然な発想だ。
「まつり? うらない? それはなんです? おもしろそうですね」
「焼いた魚をのせるなんて、だいたんな料理だね」
「そうですね!」
「でも、落っこちそうだよね」
スライムさんが動いたせいもあるだろうけど、魚がほぐれて、分離しそうになっている。
「そうですね! でも、これは、ぐを、のせるぱんの、しゅくめいです!」
「なるほどね。焼印とかだったら、かんたんだったのにね」
「やきいん?」
「うん。ちょっと、熱々の鉄の、ちょっとした模様がかたどられたやつを、じゅっ、て押しつけると、こげたみたいな形ができるでしょう? それで魚の形のやつをつくれば、本当にパンをのせるより、かんたんだよね」
「……なるほど! そのあんも、ありますね!」
「スライムさんのが正解なんでしょ?」
「ぼくは、たべものということをてがかりに、やってみただけです! ……ふふ、えいむさんには、おどろかされますね……」
スライムさんは微笑んだ。
「スライムさん?」
「……こんどは、えいむさんのいう、おまつりとはなんなのか、おしえてください!」
「どうしようかなー」
「えいむさん!」
「じゃあ、今度は、スライムさんが考えるお祭り、やってみて」
「ぼくがですか?」
「うん。交代だよ」
「わかりました! まず……」




