156 スライムさんとレストランの手続き
「こんにちは」
よろず屋に入ると、スライムさんが頭の上にお皿を乗せて、お店の奥からやってきた。
薬草がのっている。
「いらっしゃいませ……」
スライムさんがいつもより低い声で言った。
「こんにちは」
「どうぞ」
「もらっていいの?」
「ええ」
私は、皿をカウンターの上に置いた。
スライムさんも、カウンターの上に乗った。
「じつはさいきん、おいしいごはんを、だす、おみせの、はなしをききました!」
「レストランかな」
「たぶんそうです! きっと、こんなふうに、りょうりをだします! りょうりをだします……」
スライムさんは、いつもより低い声で言い直した。
「かわったはなしを、してました!」
「どういう話をきいたの?」
「りょうりをだすまえの、てつづきです!」
「料理を出す前の手続き?」
「はい! おきゃくさんに、やってもらう、だいじなことがあるというはなしでした!」
「なんだろう。ちゃんとお腹を減らして行くとか?」
「それもだいじですね」
スライムさんは、かみしめるように、言った。
「でも、ほかにもあります」
「ふうん?」
「まずは、ちゃんと、てをあらうことです!」
「ああ、なるほどね。それは大事だよね」
「はい!」
「手を洗うなら、きっと、ちゃんと上着を脱いで、帽子もとって、他の部分もしっかりするもんね。食べる準備だ」
「そうだ!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「さいしょに、きんぞくのものや、とがったものは、ちゃんとからだから、はずすように、ということもひつようでした!」
「とがったもの?」
変な言い方だけど、準備をする、ということだろうか。
「さすがえいむさん! おみとおしですね!」
「へへ」
「そして、つぎは、くりーむを、ぬります」
「クリーム? 手に?」
「きっとそうです」
「寒くなって、空気がかわいてるからかなあ?」
「おきゃくさんの、てを、まもるんですね!」
「なるほどねえ」
おいしいお店というのは、いろいろなところに気をつけてくれるらしい。
「そして、こうすいを、ふきつけます!」
「香水? そんなのつけて、料理のにおいを、じゃましないのかなあ」
「たぶん、じゃましないやつです」
「そうか。じゃましないやつか」
「はい。そしたら、しおを、ぬります」
「ええっ?」
私は思わず、大きめの声が出た。
「どこに?」
「てとか、あしとか、かおとか。いろいろなところです」
「おいしいお店って、ずいぶん、変なことさせるんだねえ」
「そうですね!」
「もしかして、手で食べるとか?」
「どうしてですか?」
「自然な塩味がつくとか?」
「! さすがえいむさんです!」
「そう?」
と言いつつも、あんまり、正解しているような気がしない。
「そしたら?」
「ごはんが、はじまります」
「ふうん」
「そこは、まものがいっても、いいんですよ!」
「そうなの? じゃあ、スライムさんと一緒に行けるの?」
「はい!」
「へえ。それはおもしろいね」
「でも、いっしょには、たべられません」
「そうなの?」
「いりぐちも、でぐちも、べつです。りょうきんも、べつです」
「なにそれ?」
「だいきんは、にんげんは、5ごーるどで、まものは、5000ごーるどです」
「うん??」
なんだか、聞けば聞くほどわからなくなってきた。
「えいむさんは、おやすいですよ! いきたいですか?」
「私はいいや」
「どうしてですか!?」
「スライムさんと一緒に行けないし。家族で行っても、なんだか手続きが多くて、大変そう。食べ方も、きれいに食べないととか、規則が多そうじゃない?」
「きそくが、おおそうです!」
「だから私はやめておく」
「じゃあ、ぼくも、やめておきます!」
「私はこれで」
私は、薬草をひょいっと口に入れた。
「あ! ぼくもです!」
スライムさんも、ぱくりと薬草を口に入れた。




