155 スライムさんと、うっ
「えいむさん、ちょっとしんでください」
「えっ」
よろず屋に入ったら、あいさつもなく、いきなり言われた。
「えっと?」
「じゃあ、まず、ぼくがしにますね?」
「えっ」
「うっ……」
スライムさんは、とことこ、と進んで、倒れた。
「うう……。と、こんなかんじです!」
「うん?」
「じゃあ、えいむさんです。どうぞ!」
「ええと? 私が、いまのやつをやるの?」
「ちがいます! そうです!」
「どっち?」
「えいむさんは、えいむさんの、し、をやるんです!」
「わかった」
全然わからないけど、いちおう私はお店に入りなおした。
「こんにちは、スライムさん」
「えっ? こ、こんにちは」
スライムさんはびっくりしていた。
「今日も薬草がほしいんだけど」
「い、いいですよ?」
「うっ!」
私はそこで死んだ。
胸をおさえて、カウンターにもたれるようにして死んだ。
こっそり薄目を開ける。
「……もう生き返っていいの?」
「はい! えんぎは、ですね、えいむさん!」
私は、カウンターに手をついて立ち上がった。
「いきなり死んでなんて言うからびっくりしたよ」
「ふっふっふ、すいません! ですが、これは、ひつようなじっけんです!」
「実験?」
「そして、それは、りっしょうされました……!」
「なにが立証されたの?」
「それは……」
「それは……?」
ごくり。
「うっ、という! です」
「うん?」
「ぼくも、えいむさんも、いいました!」
「あ」
そういえば。
私もスライムさんも、倒れるときに、うっ、と言った。
「どうして、うっ、ていうんですかね?」
「たしかに。考えてみると、うっ、て言ってから死んじゃうのも、変だしね」
病気で寝ていた人が、急に、うっ、と言って死んでしまったら、なんだか変な気がする。
「でも私、死んじゃう人を目の前で見たことないけどね……。あ、だからかな」
「なんですか?」
「ほら。やっぱり、死んじゃう人って、病気だったり、ケガをしたりする人が多いでしょ? きっと。だから、健康な私たちがやると、急に、なにか起こさないといけないんじゃない? なんにもなくて死んだふりしたら、変だもん。あ、そうだ。病気でも、やっぱり、急に死んじゃったりするって、説明したくなるんじゃない?」
「!! えいむさん!」
スライムさんが、目を丸くした。
「なに?」
「ぼくの、とおかまえからの、ながねんのぎもんが、かいけつしました!」
「10日前?」
「まさか、かいけつするなんて……! ぼくはきっと、なんでだろう、なんでだろう、といいつづけて、らいねんになると、そう、おもっていたのですが……」
スライムさんは、ぷるぷる震えていた。
「でも、合ってるかどうか、わからないよ」
「あってます! ほかの、まちのひとも、わからないっていってました!」
「そうなんだ」
そう言われると、なんだか、私がちょっとすごいような気もしてくる。
「だれも、なにも、わからないと!」
「そう? わかったのは、私だけ?」
「はい!」
「えー? 私、そんなにすごいかなー? えー? 私がー?」
「すごいです! えいむさんは、すごいです!」
「えへへー。そうかなー」
「よし、こうしちゃいられない!」
スライムさんはお店を飛び出した。
「どうしたのー!」
私も追いかける。
「まちのひとにも、おしえてきます!」
「えっ?」
「えいむさんがおしえてくれた、ぜったいのこたえだと、おしえてきます!」
「ちょっと! そこまで絶対の答えじゃないよ!」
「いいえ! ぼくのなかでは、じしんがかくしんにかわりました!」
「待って!」
飛びついてつかまえようとして、スライムさんがぴょこぴょこ左右によけるので、なかなか捕まえられない。
「待って!」
「まちません!」
「……うっ」
私が言ってみると、スライムさんが止まって振り返ったので、私はスライムさんを捕まえた。
「やった!」
「えいむさん……!? しんだんじゃ……!?」
スライムさんが、私の腕の中でにゅむにゅむ動く。
「私は、スライムさんをだましたのだ」
「な……! さっき、きいたばかりの、しぬまねのはなしを、さかてにとった……!?」
「ふっふっふ」
「ぼくの、まけです……」
スライムさんが、にゅむにゅむをやめた。
「よし。あきらめがいいね」
「……だまされましたね!」
スライムさんが、ぴゅん! と走り出した。
「ま、待てー!」
「ふっふっふー!」
「うっ」
「だまされませんよー!」
「成長したなー、スライムさんー!」
「ふっふっふー!」
「……あっ!」
「えっ」
私は、立ち止まったスライムさんを捕まえた。
「あ、ずるいですよ! いまは、うっ、しかやっちゃいけないんですよ!」
「うっ」
「いまじゃないです!」
「よくわからないなー」
「わかってるくせにー!」
「ぐへへへー!」
「えいむさんが、わるい、わらいかたをしてます!」
私は、スライムさんを連れてお店にもどった。




