136 スライムさんとかげふみ
夜のうちには雨が降っていて、眠る前には音が聞こえていた。
でも、朝になると空は黒い雲でおおわれているだけになっていて、昼をすぎたころには、急に雲が晴れていた。
私は、いくつもある水たまりを見ながら道を歩いた。
よろず屋が見えてきて、建物の横のほう、草原が広がっているところに、きらりと空からの光を反射するものが見えた。
スライムさんだ。
よろず屋から離れた場所で、じっと動かないでいる。
なにをしているんだろう。
スライムさんは私と反対方向を見ている。私の足音が近づいていっても、気づかないみたいだった。
「スライムさん?」
「そのこえは、えいむさんですか?」
スライムさは逆側を向いたまま言った。
「うん。こんにちは」
「こんにちは!」
「スライムさん、なにしてるの?」
「ぼくのことは、きにしないでください」
「え?」
続けてなにか言ってくれるのかと待っていたら、スライムさんはそれっきり、動きもせず、なにも言わない。
「スライムさん、どうしたの?」
「ぼくは、わるいすらいむです。だから、ばつをうけているのです」
「罰? なんの?」
「えいむさんを、またなかったばつです……」
「私を?」
「さきに、かげふみを、してしまったんです」
スライムさんは言った。
「きょう、あさは、くもっていたでしょう」
「え? うん」
「ぼくはおもったんです。いまなら、かげばっかりだと。どこにでもいけるかげふみ。むげんかげふみだと」
「無限かげふみ」
「えいむさんといっしょに、せかいはつ、むげんかげふみ、しようとおもって、まっていたんです。でも」
「きづいたら、あそんでいたんです」
「それがわるかったんでしょうね。そらが、はれてきたんです。ぼくは」
スライムさんは、まわりを見た。
「みちを、なくしてしまったんです。ここには、ぼくがあるいてもいい、かげが、ないでしょう? ぼくはもう、ここからいっぽも、うごけないんです」
「かげふみ、やめたらいいんじゃない?」
「じぶんではじめたことです。だれかにおしつけられたきそくは、やぶることができても、じぶんのきそくは、やぶっては、いけないんですよ」
スライムさんは、空を見た。
「いい、おてんきですね……」
「お店には行かないの?」
「ぼくは、ここから、うごけませんから……。ずっとね……。ふっ……」
「かげふみ、やめないの?」
「ぼくの、きめたことですから」
「私が、遊びたいって言っても?」
「……。これは、ぼくのもんだいですから」
「ふうん」
私は、スライムさんのまわりを、歩いて一周した。
「どうかしましたか?」
「ううん、べつにー」
私はもう一周した。
スライムさんが、私の足元を目で追っていた。
私はもう一周する。
「それじゃあ、ちょっとお店の様子でも見てこようかなあ」
「……」
私がゆっ……、くり歩き始めると。
スライムさんが、ぴったりついてくる。
私がふつうに歩くと、スライムさんが横をぴょこぴょこついてくる。
私が急に止まると、スライムさんは、一回私の影の外に出そうになってから、ぎりぎりこらえて、影の中に完全にもどった。
私と目が合うと、スライムさんが妙に真剣な顔で見てきたので、笑ってしまった。
スライムさんも笑った。




