131 スライムさんとぬののふく
よろず屋の前に置かれていたのは、ひとつの木箱だった。
私ひとりで抱えるのは難しいかな、というくらいの大きさだ。
「これがじゃまなの?」
私はスライムさんに言った。
「そうです! ですが、そのまま、はこぶのは、むずかしいです。そういうとき、どうしたらいいとおもいますか?」
スライムさんは、ちらりと横を見た。
台車がある。
「台車にのせる」
「さすがえいむさん! そうです、じつは、だいしゃをよういしているのです! でも、ひとりでは、むずかしいかなあ」
スライムさんはちらりと台車を見る。
「私も手伝うよ」
「さすがえいむさん!」
台車は平らな板の下に小さな車輪が4つあって、板の上に伸びている手すりを押すと前に進めるようになっている。
「いくよ」
「はい!」
台車を近づけて、私たちは、箱をなんとか上にのせた。ほとんど私が持っていた。
「ふう。これで、ひとしごと、おわりましたね!」
スライムさんは、清々しい顔。
「これを中に入れるんでしょ?」
「ふたしごと……」
私は台車を押して、よろず屋に入っていった。
入り口のすぐ横で止める。
「ここでいいの?」
「はい! あめに、ぬれたりしなければ、いいので!」
「でも、まちがって運ばれるなんて、迷惑だね」
この荷物は、別のお店の商品らしいけれど、まちがって、スライムさんのところに届いてしまったのだという。
「えいむさん……。まちがいは、だれにでもあります。もんだいは、そのあと、なにをするか、です……」
「そっか。そうだよね」
「めいわくですが!」
「そうだよね!」
私は木の箱を見た。
「ところで、なにが送られてきたの?」
「ぬののふく、です」
「ぬののふく?」
「みてみますか?」
私が言う前に、スライムさんが箱を開けてしまった。
開けていいのだろうか、と思ったけれど、よく考えたら一度開けたから中身を知っているんだろう。
中には、たくさん布が入っていた。
真っ白ではないけれど、おうどいろよりは、色が薄い。中間くらいの色だ。
ぎっしり詰まっている。
「洋服屋さんの荷物が来ちゃったんだね」
「これは、ぼうけんするひとが、つかうものですよ」
「冒険する人?」
「ぼうけんするひとは、ぜんいんに、ぬののふくが、くばられます。それが、ぼうけんのはじまりです」
「剣とかじゃないの?」
「けんは、つかわないひとがいますけど、ぬののふくは、みんなつかいます」
「なるほど」
私も服は着ている。
「ぬののふくって、みんな同じ色なんだね」
「はい! ぬののふくは、ぬののふくのいと、でつくられていますので!」
「ぬののふくの糸?」
「せんようです! ぬののふくを、つくる、ためだけのいとなのです!」
「そんなものが……?」
「そうすることで、おやすく、ていきょうできるのです……!」
私は、ひとつ手にとってみた。
手ざわりはふつう。特に重くも軽くもない。
上下がそろっていて、これだけあれば服として充分だ。
「普段着にはいいけど、冒険に着ていくには、ちょっと頼りない気がするかな」
「だからこそ、かれらは、もっといい、そうびを、そろえようとするのです……!」
「よろず屋でも売ってるの?」
「いやですねえ、ないですよ! くばられるものですから」
スライムさんは笑った。
「でも、普段着として、よろず屋で売ってもいいんじゃない?」
「……!!」
スライムさんは止まった。
「スライムさん?」
「ぼくは、そんなこと、いちどもかんがえませんでした……。ぬののふくは、くばられるもの……。そういうかんがえでした……」
「私が着てもいいしね」
「!! えいむさんが、きる……。ぼうけんしないのに……」
「だめ?」
「いいです! そんなこと、かんがえませんでした……。よし、さっそく、これをうりましょう!!」
スライムさんは、箱をぷにぷに押した。
「これはスライムさんのじゃないんでしょ?」
「ふっふっふ。じょうだんですよ」
スライムさんが笑う。
「もう、びっくりしたよ」
「……じょうだんですよ?」
スライムさんが、ぬののふくをじっと見る。
「スライムさん?」
「でも、あたらしい、しょうばいというのは、すぐ、というのがだいじです。おおきなしょうばいは、いつだって、ちいさなしょうばいから、はじまるのです」
「スライムさん?」
「はやいというのは、いいことです」
「スライムさん?」
「さいあく、うってもいいですよね?」
「だめ!」
「ふっふっふ、わかってますよ、いやですねえ」
「……」
「……」
「……」
私たちは、見つめ合った。
「えいむさん。いま、ぼくがどうおもっているか、わかりますか?」
「……うーん。ぬののふくを売って、ひともうけしようと思ってる?」
「はずれです」
「じゃあ、なんだろう……」
「せいかいは……」
「すでに、ぬののふくをうって、おかねをかせぐのは、めんどうだ、とおもってる、でした!」
「それはそれでだめ」




